#52  ゼロワットパワー 村谷さんインタビュー ~電力自由化の本流~

電力界の‟ザ・情報通”と囁かれる人物。それが、新電力会社や電力ビジネスのコンサル経験の豊富なゼロワットパワー株式会社の村谷敬さんです。
常に業界の最前線で末来を見据える村谷さんは、まさしくエネルギー業界のスペシャリスト。一人で考えていても答えを見失ってモヤモヤしてしまいそうな「環境の問題」や「これからのエネルギーの問題」をこの機会に色々お聞きしちゃいました。
大きな情報、小さな情報、世間に数多溢れる情報から何を聞き入れますか?

村谷さんて何者?!

―まず、村谷さん自身のことをお聞きしていきたいのですが…
村谷さんは以前行政書士もされていたのですよね?大学も文系だとか?

村谷さん(以下、村谷):はい。村谷法務行政書士事務所という自分の事務所で相続問題を主に取り扱ってきました。それが紆余曲折を経て、エナリス、エプコという電力自由化業界でのトップランナー企業で経験を積むこととなり、今はゼロワットパワー株式会社の新規事業開発室長として、電力小売事業のマネージャーを務めています。

─ゼロワットパワーのことは後ほど詳しくお聞きしたいのですが、「ズバリ!村谷さんのお仕事って何?」を私たちにもわかりやすく超簡単に言うと?

村谷:ゼロワットパワーの再生可能エネルギービジネスの全般的な企画屋です。その中には、私の好きな他社のコンサルティング業務も含まれます。このエネルギー業界で、特に再生可能エネルギーを軸にして活動されている方々って、より良い未来を作りたいって思いがとても強いのですが、ことビジネス面になると結構独善的になってしまう側面が強いんです。
それで上手く立ちいかなくなっちゃう方も多くて、そんな本当はまっすぐ行けるのに何かずれて来た人やスキームのケツを叩いてここがポイントだよね!ここでしょ!という感じでテコ入れしたりしています。ゼロワットパワーの仕事は、再生可能エネルギー事業という、えてして単なる発電所建設やEPC事業を行うだけでなくて、地域間連携や新電力事業同士の合従連衡も考えなくてはならないので、本当に楽しいです。

環境性を追求するゼロワットパワー

─先ほどもでましたが、改めてゼロワットパワーはどんな会社なんですか?

村谷:バイオマス発電のEPC(設計・調達・建設)やコンサルティングをを行う傍ら、自らも新電力事業者として登録して、バイオマス電力を調達して販売しています。燃料調達から売電まで、トータルで関わっている会社は極めて珍しいですね。

─バイオマス発電についても詳しく教えて下さい。

村谷:バイオマスとは英語のbio(生物資源)と mass(量)を合せた言葉で、生物が太陽エネルギーを使って無機物でもある水とCO2(二酸化炭素)から作り出した有機性資源のこと。わかりやすく言うと植物や木を使った発電です。
バイオマスにもいくつか種類があって、通常は廃棄物とされるものを使った廃食油や廃棄物を活用したバイオマス、今まで利用価値がないと思われていた未利用の間伐材などを用いたバイオマス、そして木材チップやパームの殻など燃料として植物を資源としたバイオマスがあります。ゼロワットパワーの得意とするバイオマスは、家庭や工場などから排出される廃食油を燃料化して発電するというタイプですね。既に茨城県の土浦市で地元のスーパーなどから出る廃食油を使って2,000kWの発電所を建設して、もう発電は始めています。

─それらバイオマスなどを活用して、新しいシステムを作っていこうってことですね! ところで、ゼロワットのゼロって・・・?

村谷:セロワットの「ゼロ」には様々な想いが込められています。「ゼロ・エミッション」という、ある産業から出るすべての廃棄物を新たに他の分野の原料として活用し、あらゆる廃棄物をゼロにする、という「ゼロ」であり、CO2(二酸化炭素)排出ゼロの発電を目指すという「ゼロ」でもあります。再生可能エネルギーの中でも、特に廃食油にこだわるのも、そうした想いからなんです。もちろん、再生可能エネルギー全体のポテンシャルをもっと拡大させたいという気持ちもあります。そこで、ゼロワットパワーでは「RE: conquista(レコンキスタ)」という活動も実施しているんです。

─え、レコンキスタって何語ですか?

村谷:スペイン語です。コンキスタが支配とか征服って意味で、再びとかの意味があるリ(Re)を付けて、スペイン語読みでレコンキスタ。ゼロワットパワーのレコンキスタっていうのは、FIT制度に限界が見え始めて、低調になりかねない再生可能エネルギーのシェア上昇の流れを再び取り戻そうってことです。一時期再エネのシェアが一気に伸びそうになったあれを再び、と。

教えて!エネルギーのあれこれ

─それって太陽光発電が一気に増えた時期ですか?

村谷:そう。でも失礼を承知で言わせてもらえば、結局あれは国や電力会社の罠でしたね。 あれだけ太陽光発電の固定買取価格が抜きん出て高いとなれば、エネルギーのことを何も知らない人たちは「太陽光バブルだ!」ってなる。結果、単なる想いも何もない投機ばかりが日本国中で行われて、農地が潰されて、山が削られて、太陽光パネルばかりがおかれました。そしてFITの負担金が大きくなって、太陽光パネルを作らなかった人たちは、作った人たちを金儲け主義だと否定する、みたいな。つまり最終的に再エネを悪者にしようとしてたに等しい。
太陽光発電が増えると、曇りの日や雨の日の電力が生まれないから、誰かが最終的に調整してあげなくちゃいけない。それは、誰だ?調整電源は何だ?それは大手電力会社だ、火力発電所だ!だけど火力は二酸化炭素を生むからパリ協定上よろしくない、じゃあ他に調整電源で再エネを抑えこめるほどのものは何か?そうだ原発だ!クリーンな電力じゃないか、あれは!という話へ持っていった。

─今もまた原発が動くための準備が整って来ている気がするんですが・・・?

村谷:そうなんですよ。今、政府が建てているエネルギーミックス(再生可能エネルギーや火力、水力、電子力など多様なエネルギー源を組み合わせて電源構成を最適化すること)によると、2030年には、再エネが20%程度、原発も20%程度。 残りの60%が…LNGと石炭。 およそ30%づつで、3パーセント程度が石油なんです。
これ、私が考えたミックスと大きく違います。 ていうのは20%の原発というのが、 これはねダウトなんですよ。なぜならこれを実現するためには、今の全原発の再稼働が必要なんです。

─そうなんですか?!

村谷:基準を今から10年以上先の2030年だとすると、もう廃炉になるべきおじいちゃんみたいな原発もあるんです。つまりこのエネルギーミックスでいう20%という数字は土台無理なんです。無理を承知で言ってるんです。政府は全原発を動かしたいというアピールといってもいい。一方、電力会社は動かす価値がある原発だけを選んで動かしたい。

─どういうことでしょう?

村谷:一括りに原発って言っても、全ての原発の発電コストが安い訳じゃないんです。償却が終わってる原発は安い、 終わってないのは高い。 さらにメンテナンスの必要があるタイプの炉は高いでしょうね。このように、政府と東京電力は決して同じ目線ではないということがわかります。そこで乱暴な結論として、廃炉費用を国民負担にしなくなりました。

─なくなったんだ!そうなると、どうなるんですか?

村谷:えーとね、賠償金と廃炉費用、どっちが国民負担でどっちが東京電力会社負担かって話で、廃炉費用を負担するのが電力会社になるんです。 原発をまた動かす時、電力会社にしたら価値がない原発は動かしたくないじゃないですか。 価値ある原発だけを動かしたい。 で、 「廃炉費用はうちらが持つから、 経済合理性を最優先させてくれ!」ってことで手を打ったというところです。 さらにいうと例えばその中でも、 40年経過したというやつがあっても価値があるやつだったら「いや~廃炉って言われちゃうとウチの負担になるんですよね。 だから廃炉にしないってことでいいですかね」てなる。 あるだけ動かしたいですからね。

─今まで40年だって決めてたものも延長しましょうってことも言えちゃいますか?

村谷:主体的に言えるようになっちゃったんです。費用負担してるのはこっちだろうって。
電力会社は逆になるのは嫌だったんでしょうね。もし、賠償問題は電力会社、廃炉は国民となると「国民側の金でやってるんだから止めろっつったら止めろよ」と言われたら止めなきゃいけないし、 賠償はどこまで膨らんでも自分が持たなきゃいけないし。 だからこれは電力会社側に優位に動いたって言える。というか、いつも電力会社は新電力や国民の一つも二つも上に行きます。そして、彼らが再生可能エネルギーは迷惑だと思ったら、徹底徹尾その拡大を妨害してきます。私は根っからの性悪説ですので、そんな彼らの考えそうなことを実行できないように慎重に仲間を選んでモデルを水面下で作ることが重要だと思っています。

期間は3年、2020年まで?!

─これからの新電力はどうしていったらいいと思いますか?

村谷:新電力というのは、本来は大手電力会社よりも商売がしやすい立場です。自分が売りたいお客さん、自分たちにとって利益が一番出るお客さんだけを選んで売れるから。でも、大手電力には電気事業法っていうルールがあって、その地域のお客さん全員に売らなきゃいけないんです。例え、その地域一帯が全員ヤクザで、全員滞納するとしても面倒はできるだけ見なくてはならない。もっと言えば、大手電力はそんな人たちのために発電所を作らないといけないし、送電網を何兆円とかけてメンテナンスしなきゃいけない、人件費も膨大です。馬鹿なようにお金がかかってるんです。でも新電力は「滞納しそう?じゃあ最初から売らない」って言える。だから、利益が出て当たり前なんです。にも、かかわらず赤字続きの新電力は枚挙にいとまがないほどです。

─では、どうして勝てないんでしょう?

村谷:新電力事業というビジネスで一番大事なことがわかっていないんです。新電力事業の最も重要な仕事は、電力の需給管理です。つまり需要と供給をきちんと合わせて無駄な電気を調達しないようにすることなんです。でも、その時にどれだけお客さんが電気を使うかがわからないとうのは、どれだけ調達したらいいかよく分からないということになります。だからこの需給管理業務を軽視している新電力会社は、実は仕入れに相当無駄があります。そして、需給管理に負けじと重要なのは、発電所を自ら管理するということ。これは、牛乳屋さんでたとえると、普通は北海道や栃木県の○○牧場から、ジャージー種やホルスタイン種の牛の牛乳を仕入れてくるわけですが、そこで牧場に行ったことがない、牛を見たことがないなんて牛乳屋さんなんて、そうそういませんよね。
でも、新電力会社の場合、発電所のことも知らなければ、火力もバイオマスも区別がつかないという会社が存在するんです。新電力会社は電力をどこから仕入れてくるかといえば、もちろん発電所と契約を交わしている場合もありますが、実は多くの新電力会社は、電力をマーケットで買ってきているのです。これでは、電力会社と言うことはできませんよね。そうすると、自分たちの原価はマーケット次第ということになり、このマーケットでの価格はよく変動するんです。これで、たいていは見積もりを都合よく作りすぎるんです。
大手電力会社は、自前の発電所をたくさん持っている。つまり、原価をほぼ正確に把握できるわけです。これでは勝負になりません。そのため、私は発電事業のこともきちんと理解していない電力会社などが存在していけるわけがないと断言します。それはとても大変なことです。
ですが、それこそ太陽光バブルの時のように単なる投機目的で新電力事業を行っているんじゃなかったら、新電力は死ぬ気で対応しないといけない。結局、きちんと地道に電力会社として顧客のことを真剣に考えるということにつながるんです。なので、電力の需要を正確に把握する、その需要に合わせた電力をきちんと発電所から調達する、それだけなんですよね。

─だから初めに戻って、そこがブレないように監視したり修正したりするのが村谷さんの仕事なんですね!それで2020年が歴史的変化がある年と言われるのは何故ですか?

村谷:総括原価方式というのがなくなります。総括原価方式っていうのは、例えば大手電力会社がどのような無駄な広告費をかけていても、それに掛かったお金を必要経費として国民からの電気代の中に割増して入れられるということです。これが撤廃されるんですよ。
これはどういうことかと言うと、大手電力会社が「本気でくる!」ということです。本気でコスト計算をして、本気で大量リストラとかもやって、経営的に無駄な部分をそぎ落とした筋肉質な状態になって、真剣に新電力を潰しにくるんです。今までよりもシビアに。ここから本当の競争が始まるんです。まだ競争以前なんですよ。この時点で、電気のことを知らない、発電所を知らない、見積もりもうまく作れないでは話になりません。

─これ単純に、電気代はどうなるんですか?

村谷:電気代はね、 多分ある程度カルテルみたいになってきちゃうと思うから下がるだろうけど、あるところで必ず止まります。下がり続けるわけはない。
もし値段を下げるために活動するとするならば、 燃料からどうにかしないといけないでしょうね。それぐらい外国から輸入しちゃってるから。

─卸元があげたら上がるし、石油みたいに紛争があって供給を減らすわーとなったら上がる、ということですよね。

村谷:そんな世界で再エネがどこまで割り込めるか。再エネは、太陽光とか風力とかだと安定しないから結局火力発電の助けを借りなくてはならないので、価格を下げる力があるかとはまだまだいえない。

─あ!また初めに戻りますけど、だからみんなバイオマスに行くわけですか。

村谷:そうです。 バイオマスはそういう意味では24時間発電することができるし、コスト削減の余地も十分にあるんですよ。

エネルギーと教育活動

─最後に、これから村谷さんが新たにやっていきたいことってありますか?

村谷:今は、ゼロワットパワーと一緒に大手電力会社に刃向かう茨の道、いや狂気の道を楽しく進んでいます。これを進めていく過程で、エネルギーを循環させてくことは勿論だけど、私がもう一個やりたい循環は、人の循環なんです。つまり、エネルギーの教育活動をしたいんです。だから、電力事業の世界と、それからエネルギー教育活動、この二つを軸にしていきたいです。

─環境の問題とその解決策を探る過程は確かに教育ともつながりますね。

村谷:人材育成の一環という意味では、再生可能エネルギー検定というのを作ってみたい!通称再エネ検定。これをクリアすると合格すると、いわゆる研修を経てマイスターかなんかに認定してもらって、そのまま再生可能エネルギーに関する知識を備えた人材として、発電会社などに人材紹介したいですね。エネルギーの世界って、設備や企業のトップランナーというのはよく言われるんですけど、人材のトップランナーってあまり考えがないので、それを育ててみたいですね。
発電所のある地元の小学校や中学校で、ここの電気はどこで作られているんだろうって、発電所見学じゃなくて、その前にフライドポテトの工場なんかから見学して、その油を燃料にするところを見てもらって、そして発電所行って、この電気が君の家で使われているんだよって、「体感型地産地消」を伝えていきたいなって思ってます。

─村谷さん、今日は貴重なお話をありがとうございました。

「この世で最も貴重なものなんです、エネルギーというのは?。電力とは?。 だからタダじゃないんです」という言葉がとても印象的でした。これからのエネルギーや電力の課題は、私たちにとって大切な問題で、だからこそ、そこに夢を持ちたいものだなと思いました。
いや、実はそれは夢を持つことではなく、全ての人の夢を支えることなのかもしれません。
私たちの日常にあるエネルギーは、自然から頂いているもの、あるいは地球の力を借りているもの、そして限りあるもの ということを忘れずに、広い視野を持って未来のことを考えて行きたいですね。

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