#02  太陽ガスの電源トリオ

 鹿児島の日置市を中心にLPガス販売をおこなう太陽ガス。来年からのエネルギー自由化にむけて小水力発電事業や地域電力サービスなどの取り組みを積極的に行っています。今回のHappy Enegryは、取り組みの中で孤軍奮闘する「新エネルギー推進チーム」から及川斉志さん、同じく新エネルギー推進チーム技術Grの吉留広大さん、そして本部総務主任佐々木一誠さんに、プロジェクトの進捗と、今後の展望について話を伺いました。

—及川さんは北大理学部卒業後、まずグリーンピースに参加されたとのこと。

及川 レインボー・ウォーリア号 という船にボランティアで乗船しました。とはいえ、グリーンピースの活動はアピールすることが中心なので、私としては実際に社会にもっと「影響を及ぼすこと」が、したかったんです。そして、それには勉強が必要でした。それで「環境先進国」、ドイツに留学したんです。

—もともと環境に興味があった?

及川 環境保護、自然保護に興味がありました。その領域は、一般的には農学部の森林とか、社会系の学部にもあります。私は北大では理学部で物理を勉強し、ドイツのフライブルグ大学では森林環境学を勉強しました。もちろん授業はドイツ語で、正直わからないことも多かったんですが(笑)。

—ドイツから帰国されたきっかけは?

及川 ドイツには5年くらい住みましたが、「日本に戻りたい」というのは常にあって。やっぱり日本人として特有の風景や人、気温とか食べ物、家族や友人を懐かしむのは当然ですよね。
 それが卒業前のタイミングで3・11と原発事故があり、当時の彼女が、今は妻ですが、「できれば子どもに影響がないような、福島から遠いところがいい」と。それで、九州と四国で職を探しました。そうして、たまたま彼女の職が鹿児島で見つかったんです。

新エネルギー推進チーム技術Gr 吉留広大さん、新エネルギー推進チーム 及川斉志さん、本部総務主任 佐々木一誠さん

—もともとのご出身は?

及川 愛知県の岡崎市です。生まれは母の実家がある宮城県の東松島で、津波で床下浸水まではしたあたりです。自分としては、福島の事故がなければ間違いなくあっちに住んで何かしてただろうなと思います。何とも表現し切れない、年一回は行ってた第2の故郷に帰れない、寂しいし腹立たしい、そういう感情が今もあります。

—鹿児島はいかがですか?

及川 皆さん優しいですね。最近引越したんですが、そこは中山間地域というか、ダムが近くに2つあり、車が家の前を1日4、5台しか通らない、すごく静かなところです。あたりではお年寄りが無茶苦茶元気(笑)。大家さんも70歳ですがバリバリ働いています。

佐々木 及川さんの家の近所にも、水力発電所をつくる計画が進行中です。

—フライブルグと鹿児島の類似点か、または違うところは?

及川 違うのは、火山があるとか、景色もでしょうか。シラス台地とか、ああいうところはドイツにはほぼないと思います。

—自然エネルギーの場合は、土地によって適性が変わってきます。

及川 ドイツは風力がすごく盛んなイメージです。ところが、鹿児島県には景観ガイドラインというのがあって、それに風力発電がかかってしまう。
 あとドイツでは、地域のエネルギーに住民や農家さんがすごく出資、協力して「みんなでつくる」ということが多い。ところが、日本の場合はどうしても企業主導になる。

—その違いは何でしょう?

及川 難しい質問です。例えば、ドイツ人は個人を重視するし、個人の考えを尊ぶと言えるかと思います。みんなが政治にも関わろうとしていて、例えば一つ政策があると、しっかり皆で議論する。しっかり「悪いものは悪い」と言いますし、普通の呑みの場でもよく政治の話になる。個々人それぞれ意見をぶつけ合いますが、日本の場合はそういうことはないし、したとしても、個人的な関係がおかしくなっちゃうというか。
 つまり、自分で考えるんです。自分で「いい」と思えばすぐやる。日本の場合は自分が「いい」と思っても、「他人がどう思うか」も気にすると思います。だからなかなか踏み出せないのかなと。
 あとは、全体的なコンセンサスがまだそこまでない。

—国策として「脱原発」があれば違うかもしれない。

佐々木 ドイツだと、一般の農家さんが再生可能エネ事業をやる上で、日本みたいに大きなリスクをとって努力しなくても、スッと入れるような制度が整っています。

小水力発電機の近くで元気に咲く花

—とはいえ、日本だからこそのやり方はあって、それこそを太陽ガスで進めていくおつもりかと。

及川 太陽光、風力、水力等々、「再生可能エネルギー」と言われるものがあります。その中で、水力、風力とかバイオマス、地熱というのは、調査から実施まですごくスパンが長い。
 水力なら水利権を申請せねばなりませんし、水利権をとるのに最低1年間は流量を測らないとならない。それは、どれだけ使える発電ができるかを計算して監督官庁に提出する、本来10年間ものデータが必要とされている作業です。
 さらに日置の場合、「小水力発電推進協議会」をつくっちゃったんですが、ポテンシャルがそんなに大きくないんです。私は、そこが大きなネックでも、チャンスでもあるかなと思っています。
 確かに、単独事業としては難しいかもしれない。でも、そこに何らかの付加価値をつけて「地域活性しますよ」、「農産物のプロフィールをしますよ」ということをマッチさせていけば、単体で採算性はなくとも、そこに価値が出てくると思うんです。

—水力は適地があまりなければ、逆に何に適していますか?

及川 太陽光はあるにはありますが、九州電力の系統接続という問題はあります。それに少し雲がかかるだけで出力が下がってしまうので、電気としての質は高くない。
 電気を販売する会社としては安定した、計算できる電気が欲しい。そこで水力は非常に魅力的なわけです。風力も風がないと太陽光と同じですし、地熱とかバイオマスもいいんですが、共に課題があります。そういう風に考えていると、やはり「水力がベストかな」と思うんですが、最終的には色んなもののミックスが必要になるでしょう。

—今日も新しいスクリューをお持ちです。具体的に諸々の部品をつくられていて、手応えは?

吉留 今週中にさらに一つかたちになってくる部品がありますが、まだまだ手探りの段階です。さっきも江口浜方面、玉田土地改良区に行ってきたんですが、一昨年からそこにクロスフローの水車を取り付けています。それは一応3キロ発電するものではありますが、正直まだ十分な実験データもとれてないし、「どこまでできるか」ということが見えていない。そういう段階です。
 そもそも「土地改良区の人たちのために」という話が、実際は地域の方々のためには使えてないし、水車の下で一応据え付けでとっている実験データはあるんですが、確かに発電はしてはいるけれども、発電量よりも計測器で使ってる電気の方が多い(苦笑)。
 それに、昨日は雨の後、水路をみたらゴミがすごくたまってて、手でひっかかったゴミをすくって流したんです。たぶん、そこに猫の死骸もあったりとか、そういう実務のメンテナンス部分にも課題が出てきています。

—やりながら要所に課題が見えてきた。

吉留 まず技術面でかたちにならなければ、先に進めません。先ほど話にあった水利権のこと、法令まわりのことはありつつも、それらをクリアすれば実際に「使えるもの」がなければいけない。私は、それを準備しなければならないという使命、もっと言えばプレッシャーを感じながら、日々業務に取り組んでいます。

—チームとして一致団結し、新たな道を切り拓いていっている。

及川 吉留さんがやられているのは螺旋式の水車です。普通の水力発電所は、流れている河から取水して2、300メートル先まで引っ張って、そこで落差をとって発電します。それが螺旋の場合、すぐ「流して、回して、河に戻す」という形式で、環境にも優しく、工事費をおさえられ、技術的にもそこまで難しくない。
 ですから、ここで先行して開発できれば非常にチャンスがあると思っています。日本中でそういうポテンシャルの場所はたくさんあるはずで、これがヨーロッパとかアメリカですと、目茶苦茶でかいのもあるんです。

—太陽ガス発信で、パイオニアとして国内で広めていく。佐々木さんは現在の進捗と課題をどう見ていますか?

佐々木 私が今考えているのは、今後チームで発電する電気を、どう地域の振興に使えるか。それは、「街づくりの分野でもイノベ−ションを起こしたい」と考えていて、それにはやっぱり、外から色んな人が入ってくる地域をつくっていかないといけない。
 今、田舎では空家が問題になってるじゃないですか。そこに「ヨソモノ ワカモノ バカモノ」が入ってきて、地元の人たちと交流して生まれるグチャッとしたところからこそ、新しいものが生まれるんじゃないか。そのための下地を、この小水力発電とか自然エネルギーでできたお金を使ってつくっていきたいと思っています。

事務所のホワイトボードには熱心な会議の後が

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