#06  会津電力・佐藤弥右衛門 [後編]

※東京都内にある3331 Arts Chiyodaで開催されたトークショー、福島からはじまる持続可能な地域のかたち〜風土とテクノロジーの結婚から生まれる新しい風景〜にて撮影

—弥右衛門さんは頼もしい考えと行動力をお持ちであると。しかし本当に地域を変えるには、一人一人の意識変革も必要になるかと思います。

佐藤弥右衛門(以下、佐藤) 「常に革新していかなければダメだ」ということ。しかもその革新も、他所から持ってくるんじゃなくて、足もとにある文化をつかうことの大切さ。それはやっぱり、爺さんとか親父とか、歴史の中で教わってきたことですよね。自分の育った故郷、地域に対する愛がちゃんとないとダメなんです。
 でも、それで実際動いて、新しい酒蔵をつくったりすると、一番身近な同業者が「あんなことやって今に潰れるぞ」って、妬み嫉みひがみ恨みつらみやっかみ、もっと言えるけど(笑)。それはどこもそうなんだ。

—後に普通になることを、いち早くやられてこられた印象です。

佐藤 それは、日本中動いてたから。町並み保存連盟 とか、必ず地方には酒造があって、飛騨高山に行ったわけ。するとあそこには 山車酒造 があって、卸売りになんかいかなくたって、観光客に酒を全部売り切っちゃうわけだ。そうすると変につくって卸すより10倍くらい儲かるし、つくった分を売り切るってほど効率のいいことはない。だから何も、町並保存のためだけに蔵を引いたわけじゃなくて、やっぱり経済状況をちゃんとみてやってきたんです。

—今回のように唐突に逆境に立たされた時、人はどう考え、動けばよいか、そこを弥右衛門さんはどう捉えてらっしゃるか。

佐藤 人間が動く時というのは、「悔しさ」しかないからね(笑)。そんな美しい論理では動かない。
 私が喜多方に帰ってきた昭和50年頃だけど、その頃は片方では三倍醸造清酒で、「量さえつくれば」と、酒蔵によっては設備投資をどんどんして。それを片目で見ながら、親父は「酒づくりは 杜氏 に任せるから、お前は売ってこい」と言うわけです。
 それでトラックに酒をのせて売りに行っても、これがまたコテンパンにやられるわけ。相手はTVコマーシャル、新聞広告、しかも景品付きで、こっちはブランド力もないまま田舎から出て行って、そりゃあお話にならんわな。小売店を2日間で22、3店舗まわって、積んだ酒を細かくおろして、お愛想を言って、ご機嫌をうかがって、ちょっとあがってお茶を飲んで、老人の話相手をしないと買ってくれねえんだ(笑)。
 だからそこは、小さな蔵元の生き残り方。地域に合った、サイズに合った、そしてお客様のニーズに合った対面販売をすることで、そこが出てくる。つまりその裏には、したたかに生きていくための、オレたちなりの考えがあるわけです。
 それは、あんまり果敢に強引に攻めてもダメだけど(笑)、先走らずに「時代を読む」ということ。そして「時代を読む」ためには動いてないとダメさ。オーナーが自ら、お客様の現場に行き、同業他社のところにも行き、情報を持ってないと、未来に対しての投資がトンチンカンな投資になっちゃう。「儲かるから」って今流行りの商売に手を出したら、それは10年、20年でお終いだからね。

—エネルギーに限らずとも、これまで他県や他の酒蔵の取り組みで、「これは活きたな」ということはありますか?

佐藤 いや、そのままですよ。会津電力みたいな、小が大に立ち向かうなんていうのは、こちらはゲリラ戦なわけ。ただ一つあるのは、FIT(固定価格買取り制度)でしょう。これがなかったら、私たちはこんなことやりませんよ。
 昭和58年、熱塩加納村 で、有機農業の世界に 小林芳正 というリーダーがいた。これは県の農業関係の人間はみんな知ってるんだけど、オレも当時いい米が欲しかったの。添加物が入った三増酒なんかやめて、「純米酒をつくろう」と。それで純米酒づくりのために契約栽培したわけだけど、今は一俵一万円もしなくっちゃった米が、3万円以上して、高くてね。でも、その小林芳正と一緒に、「消費者と顔の見える関係をつくろう」と。まさにその言葉を地で行って、だから常にゲリラ戦さ。

—ヨーロッパのエネルギーの現場では、だいたい協同組合をつくるところからすべてがはじまると。

佐藤 それが正しいんだけど、ヨーロッパはいいところも悪いところもあって、油断すると根こそぎ持っていかれるし、殺される。だから自分のところに資源がないと、協同組合的な、「みんなで守り合う」というのが出てくるんだよね。
 日本の場合は生協(生活協同組合)とか、今、彼らも安全安心とか、環境だとか、消費者運動をやってきて、2000万人くらいいる会員が一番のパワーだと思うよ。「個人から変えていく」ってことを考えた時、そこを見ていきながら、彼らも私たちを応援してくれるわけだ。そして彼らだって、日本が高齢化して人口減少で、組織運営のために売上げを出す必要性がある。「次は何売るんだ」ってなれば、「再生可能エネルギーだ」ってなるわけでしょう。
 オレは地域だし、自分たちで水と食糧とエネルギーを持って、奪われたものを取り返す。自分たちでどれくらいのボリュームがあるのかと言うと、今の電気代にして、東電の設備やら送電線を買い戻せば、会津に3000億から4000億の会社ができるんです。
 会津でその規模は、それはそれはすごいです。会津には自治体17市町村あって、人口が28万人。その行政予算がどんなものかわかりますか?

—わかりません。

佐藤 喜多方が200億、若松が400億で、特別会計を入れたってその1、2割増し。そこに地方自治体、町とか村とかを入れたって、せいぜい1000億円、あるかどうか。

—そこに3、4000億の会社ができる。

佐藤 喜多方に3、4000億の会社。しかも、それをどこかから持ってくるわけじゃないよ。地元の資源による地域に根差した発電所が、卸しにするか小売りにするかは別としても、それを売上げにして、圧倒的に自由に使えるエネルギーとして、出てくると。
 会津は、ポテンシャルの塊なんです。ものすごい森林資源を持ってるから、雇用が発生するし、水力も風力も地熱もやることができる。

—確かに、会津のみならず、県全体の電力も賄えそうです。

佐藤 福島県はやれるんじゃないですか。ただ、問題は東電の水利権がね、「誰のものだ」と。「オレたちに返せ」と。「そうすれば、自分たちでやりますよ」と。

—「水利権を取り戻す」作業は、難しくはないんでしょうか?

佐藤 そんなことやってみないとわかんない(笑)。オレに力をくれればいいさ。金と情報と人材をまわしてくれれば、なんぼでもやるから(笑)。

—会津で9代目の弥右衛門さんが、山口県ご出身の 飯田哲也 さんと共に取り組みをされています。本来、会津と山口は犬猿の仲かと(笑)。

佐藤 彼は仲間。それに仲間にはもう一人、末吉竹二郎 というのもいて、あれは鹿児島だからね(笑)。だから、「今度の闘いは薩摩長州会津だぞ」と言ってるの。

—従来の関係性を超え、素晴らしいことと思います。

佐藤 そこ、クローズアップしてください(笑)。

—会津と薩長がこの事態を受けて共闘という、ある意味、ロマンを感じます。

佐藤 (笑)。
 客観的に見てるのは楽しいかもしれないけど、オレたち当事者はなかなか大変よ。でも、長州だろうが、鹿児島だろうが、そこは志。有志だから、どこ生まれだろうが関係ない。

—それこそ昔ながらの土地と捉えがちな、歴史も深い会津で、弥右衛門さんは普通に先駆的な感覚をお持ちです。

佐藤 志を持ってるということと、その志の下には打算というか、合理的な考え方がないんでは仕方ないよね。「正義ばかりでお金も何も突っ込んで」ではなく、そこに経済性を持たせ、理想を現実にしていく。そこに、そういう「商人の根性」も持たせないとダメでしょう。
 公務員な学校の先生方は、給料をもらった範囲で、研究だけやってればいい。それはいいけど、机上の空論は役に立たないからね(笑)。


TEXT BY 平井有太(マン)

平井有太(マン)プロフィール
1975年、東京、文京区出身。NYの美大、School of Visual Arts卒。フリーのライターとして各種媒体、国内外の取材を重ね、2012年10月より2年半福島市に在住。著書「福島 未来を切り拓く」(SEEDS出版、2015年)には、ドイツのエネルギーシフトを牽引した元・欧州緑の党共同議長、ダニエル・コーン=ベンディット氏のインタビュー収録。福島大学FURE客員研究員。共著「農の再生と食の安全 原発事故と福島の2年」(新日本出版社、2013年)。2013年度第33回日本協同組合学会実践賞受賞。

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