#56  Happyホルモンついに発見!

「せっかく掴みにきてくれた手を自分から切るな!」
合気道の稽古中に先生からよく指導されるポイントですが、武道に限らず「外の世界と常に接している肌」。この肌から僕たちは、どんな情報を得てるのか?
寒いとか熱いだけでなく、肌から得た情報が僕らの感情にも大きくかかわっているとしたら・・・

娘に「男を見る目」を養わせるには、娘の髪を束ねよ!
(参照:Be inspired!

この記事をfacebookでみかけたのが今回の取材の切っ掛けでした。
成長期のスキンシップと「今の私」には、なにやら深い関係がありそうですよ。

男性の子育とスキンシップ

―先生 本日はよろしくお願いします。Facebookでこのような(冒頭紹介)記事を目にしまして、「イクメン」って言葉が少し馬鹿にしたようなニュアンスを感じるなーと個人的には思っているんですが、男性も子育てに積極的に介入したほうがやっぱりいいんですよね?

山口先生:そうですね。
 基本的には、母親のスキンシップは、こどもの情緒を安定させる役割があり0~3歳ぐらいの間で重要な役割があり、父親のスキンシップは、こどもの社会性を養うのに非常に重要です。3歳ぐらいからお父さんのスキンシップの重要性がましてきますね。
 最近増えている不登校や引きこもりも、父親のスキンシップの不足が原因とも思っています。

―お父さんの会社人間化と引きこもりは、関係があったんですね
とはいえ世間のお父さんもお母さんもどちらも忙しくてわかっちゃいるけどかまってあげられないなんて方も多そうですね。

山口先生:上手く役割分担してみるといいんじゃないでしょうかね、平日は、母親 週末は父親と。
時間がなければ1日10分でいいからスキンシップをするとそれだけでもずいぶんと違いますよ。

―スキンシップも単にベタベタするだけだと嫌がられそうですね

山口先生:年齢に応じたスキンシップが必要ですね。
小さいうちは、べたべたしたスキンシップでいいんです。まあ幼稚園に入る前までぐらいですね。
それ以降は、こどもが求めてきた時に受け入れてあげるスキンシップに変えていくといいと思います。
目安としては、赤ちゃん時期は、抱っこして常にスキンシップしている
歩けるようになると肩車や手をつなぐといった感じです。

―やっぱり直接肌と肌が触れ合う方がいいんでしょうか?私(男)もたまにオムツを変えるとかは手伝っていましたが、これもスキンシップなんでしょか?

山口先生:裸の方が脳に与える影響は大きいですね、おむつを替える時も、できるだけ肌に触れてあげるとスキンシップ効果はあります。

幼少期にスキンシップしてやれなかったこどもや親はどうなるの?

―少し大きくなってからでも足りてなかったスキンシップを補うことができるんでしょうか?

山口先生:保育園の4・5歳ぐらいの子供で問題行動の多いこどもに対する実験というのがあるんです。
この問題行動の多いこどもに対して保育士さんや他のこどもとののスキンシップを増やしてもらう実験をされたそうです。だいたい3か月ぐらいの期間ですが…
それだけでかなり問題行動が改善されたそうなんです。

―スキンシップを増やすとは具体的にどんなことをされたんですか?

山口先生:1日3回だっこしてあげたり、こども同士が遊ぶ時も手をつないで鬼ごっことかを週3日×3か月実施したそうですよ。
でもあまり考えすぎずに登園、昼間、帰るときにだっこしてあげるだけでも劇的に変化するようです。

―さすがに小学校や中学校になってしまうと手遅れですか?

山口先生:小学校、中学校になってしまってからでもできなくないですよ。スキンシップの方法に工夫が必要ですが…
例えば、思春期の息子さんとの会話が激減したお母さんが、部活から疲れてソファーで寝ている息子さんの足をマッサージしてみた、するとこのマッサージがすごく気持ちよかったそうでこれをきっかけにコミュニケーションが復活し、いろいろ話をするようになったそうなんです。
年齢に応じた適度なスキンシップが、親子関係をよりよくします。
ただしほどよい距離感を見極める、センスを持っている必要はありますが…

―こどもの性格にスキンシップはかなり影響あるんですね

山口先生:気質は、親からの遺伝で決まりますが、これに子供のころの養育環境(どれだけ愛情をうけた?過酷だった?)が加わって性格が、決まります。
でも性格は一生変わり続けるんですよ。特に変化が激しいのが、10歳まで。10歳までが「脳」も急激に成長しているからなんです。

―そもそもスキンシップすると私たちの体でどんな反応がおこっているんでしょうか?

山口先生:大雑把な言い方をすると「自我の発達、自尊感情の根本をつくる」行為といえます。 これらは、1歳ぐらいまでに構築されてしまいます。 これがないと基本的信頼感がない人間として成長してしまい、「世の中で自分が必要とされていない」「生きる価値がない」と思いながら生きていくことになってしまいます。

―ずっと自分探しをしてしまいそうですね。

山口先生:基本的不信感をもってしまうと修正は、かなり難しいです。でも不可能ではないです。
できれば、2歳3歳と早いうちに修正するにこしたことはないですが…

それと、もう一つ重要なことですが、肌の感覚は、幼児期に作られるんです。
「触れて気持ちがいい」とか「不快だ」とか感情に関わる触覚は幼児期の影響をかなり受ます。

―赤ちゃんは、なんでも触り口にいれたりしますね

山口先生:幼児期の子供は、触覚人間なんです。
人工的なものよりも自然のものを触らせた方が、触覚の感度はあがります。
自然のものは、同じものが2つとなく温度も違えば、固さもちがう
この多様な違いに触れる経験が感覚を磨いてくれるんですよ。

小さい時にスマホやゲームを持たせない方がいいのもこういった理由からも言えますね
でも「電車にのって騒ぐから」と少しの間ぐらならゲームさせてもいいと思います。
あまりガチガチに管理せず、少し寛容な子育てをお勧めします(笑)

―少し話が戻りますが、結局男性の役割はある程度子供が大きくなってからってことでしょうか?

山口先生:一番いいのは母親とのスキンシップで2番に父親、3番が保育士さん
 こんな研究結果があるんですが、栄養状態と衛生面では全く不自由ない環境で育てられた戦争孤児の子供たちの成長がどうしても遅れるそうなんです。
(※5歳でも3歳ぐらいの体重と知能しかない)
この原因を掘り下げて調査してみたところ「親の愛情不足」が「こどもの成長ホルモン不足」に繋がっていて、心身両面での成長が遅れることが調査結果で判明したんです。

―1人の大人が、複数の子供の面倒をみている環境では、愛情不足なんですね

山口先生:やはり家庭的な養育が必要なようです。
1対1の関係、愛着の関係を結ぶことがなによりも大切なんです。
これは、実の母でなくても「母」となる人がいれば代用できます。
親子の絆を確認できるのが「母子」で、母親は自分の子だと確証をもてますが、父親は残念ながら持てない。

―そういえば、動物の親子は大概「母子」ですね、あら父ちゃんの出番がまた少なくなっちゃいましたね

山口先生:夫婦で子どもを育てるとオキシトシンというホルモンが大量にでます。
このホルモンは、こどもにも影響を与え「人との絆を深めることができる」子供に育ちます。
オキシトシンは、夫婦間やパートナーとのつながりで絆を深める役割を果たしていて、このパートナーと連携して子育てをすることが人間らしさだといえますね。

―なるほど!人間関係に苦労したり、恋愛関係がうまくいかないのも両親の子育てに関わる度合が関係しているんですね
このオキシトシンが、少ないと気づいた大人は自助努力で増やせないんでしょうか?

山口先生:引きこもり、うつ病とスキンシップに関する研究があるんですが、うつ病の方にマッサージをしてあげると「オキシトシン」が分泌され、脳内伝達物質セロトニンが、活性化され、「心の安定につながる」そんな研究結果があるんですよ。

―だれがマッサージしてもいいんですか?

山口先生:さすがにある程度信頼関係がないと緊張が解けないようです。
さらに虐待をしてしまう母親を研究していた方もいて、その研究では分かったのは「自分の母親から愛情をもって触れられた経験が少ない」
→「人に触れられること自体を嫌がる」
→「自分のこどもにも触れられなくなる」
こんな連鎖が生まれしまっていることが解明されています。

―これもつらい悩みですね

山口先生:この研究は、続きがありましてね。こういう状態のお母さんに実験的に「大きなぬいぐるみ」を抱いてもらうことを生活に取り入れてもらったそうです。
まだ結果は出ていないが、かなり効果がありそうな結果が出てきています。

抱くことで安心感が得られる経験をご自身に体験させてあげることが、幼少期に得られなかったスキンシップの安心感を補うことになり、自身の子育てでは自分の子供に愛情のあるスキンシップをしてあげることができるようになるそうです。
※犬や猫などのペットでもいいようです

―これは、セックスレスの夫婦間のスキンシップの再生にも同じアプローチができそうですね?

山口先生:夫婦の場合は、無理にスキンシップをはじめなくても「思いやる」、「やさしい言葉をかけてあげる」だけでオキシトシンがでてきます。
 「おかえり」、「ありがとう」、「行ってきます」というだけでもでますし、奥さんをファーストネームで呼ぶだけでもでてくるんです、つまり相手へのリスペクト、相手の存在(個体)をちゃんと認知しているよー!が、大原則です!

―無理やりマッサージしたり、手をつないだりとかしなくていいんですね(笑)

子育て法

―発達心理学の専門の山口先生が考える理想的な子育てとはどんな内容でしょうか?

山口先生:「どういう人間に育てるのか?」が最も重要ですね。それによって親子のコミュニケーションは変わります。

例えば、バリバリ人を押しのけてでも働く肉食系を目指す、つまり競争社会で勝ち続けろ!系だったら、「オキシトシン」よりも「テストステロン」が沢山でる子育てをするべきでしょう。
テストステロンは自分を社会の中で主張する時に必要なホルモンであることから、社会的ホルモンともいわれています。
テストステロンは声がハッキリと大きい人、自分をきちんと主張する人はその分泌量が多めといわれ男性的なイメージですね。
男性とは元来、自分の縄張りを作り、縄張りを侵されると怒りを感じることが多いのですが、それはテストステロンの働きによるものだといわれています。

―このタイプには安らぎも思いやり(オキシトシン)はいらないですね!

山口先生:ところが、このタイプに育てるとしても基本的信頼感は、必要なんです。
これがないと「うたれ弱い子」にしなります。
1歳まではオキシトシンがでるようにしっかりスキンシップしてあげて、それ以降スパルタ式に!
今の育児は、過保護になりすぎだとおもいます。
自分でやらせることは大事ですから、子供が体験する前に親が危ないといって止めてしまうから子供が、自分で学ぶ機会を奪ってしまっているのが問題ですね。

子育ての理想的なスタイルは、突き詰めると日本の伝統的な育児スタイルに行きつくとおもいます。
昨年まで沖縄の離島の「多良間島」で調査を行いました。
※宮古島と石垣島の間にあります。

―日本というよりも縄文文化が残ってそうですね

山口先生:一番の特長は、地域みんなで育てる環境が残っています。
「守姉」というシステムで、畑仕事で忙しい母親の代わりに「年長(小学生の高学年ぐらい)の女の子」が、生まれたばかりの赤ちゃんの家を訪れて母親の代わりに守姉が面倒をみる。
その子が成人して結婚するときには、結婚式にも姉守が招待されるんです。

―日本全体が少子化・過疎化している中でこどもは減ってないんですか?

山口先生:離島ですが、少子化してなくて出生率も日本一だったこともあります。
しかも昔ながらの子育てを求めて移住してくる家族もいます。
こどもの数の問題よりも保育園ができてしまって文化の衰退がはじまってしまいました

―移住は、難しいので今住んでいる地域で繋がりを作るしかなさそうですね

山口先生:都会の子育ては、孤立化しているのでちょっと調子が悪いと自分の子供の成長が正常かどうかを気になっても相談する相手がいない、こういう相談に乗ってくれるママ友をつくっておくのは大切ですね・

―日本的な伝統的な子育ての特長は他にもありますか?

山口先生:日本の伝統的な子育ての要素ですが、たとえば「おんぶ」があります。
おんぶは、母親にとっての身体的な負担が小さく、子どもにとっても常に母親の視線に縛られずに、母親と同じ物を見られるという、共感的に世の中を見るのに役立ちます。
また「べったり育児」といって、子どもは母親の背中にいつもおんぶされて育ちました。
農作業中も、家事中もずっとです。
こうして子どもは母親とスキンシップをたっぷりと持つことができたのです。
そのため子どもはいつも機嫌がよく、情緒も安定していたようです。

これが一番いまの子育てに欠けているかも知れませんが、「おおらかな子育て文化」があります。
欧米のように、厳しくしつけをするのではなく、多少いたずらや悪さをしても、大らかに見守る風習です。
子どもを地域全体で大切にしていたからこそできたんでしょうね。
江戸時代までは、父親が子育てをした時代とも言われており、父親が積極的に子育てに関わっていた特徴もあります。

―私たちが現在持っている日本的な子育てイメージは、中途半端に西洋かぶれした近代日本の常識ぽいですね!古い日本の伝統的な子育ては、男性も積極的に参加してかなり楽しそうですね!
先生本日はありがとうございました。

都会生活では、いろんな感覚を閉じないと「正気を保つ」ことが難しく、感覚を閉じていることが当たり前で暮らしていますが、せっかく持っている感覚なのでたまには、意識して開いてあげませんか?
この世知辛い世の中を暮らしやすくする近道は、自分自身の感覚を開いてあげることなんだろうなーとしみじみと・・・
※Happyホルモン「オキシトシン」ですが、「募金」をしてもオキシトシンは分泌されるそうです。

【先生紹介】山口 創(やまぐち・はじめ)
桜美林大学リベラルアーツ学群教授。1967年生まれ。
早稲田大学大学院人間科学研究科博士諌程修了。臨床先達心理士。専門は身体心理学・健康心理学。
スキンシップについての研究を行なう。著書は「幸せになる脳はだっこで育つ。」(廣済堂出版)他多数 。

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