#41  Homedoor 川口さん

今回、我々は大阪にあるホームレス状態を生み出さない日本にするためにHUBchari事業を中心に活動する認定NPO法人の Homedoor さんを訪ねました。大阪の2大問題であるホームレス問題と自転車問題を一挙に解決するHUBchariではホームレスの人々の特技である自転車修理を活かしたり、そこにはアイデアあふれる取り組みがたくさんありました。代表を務める川口さんにその思いと活動する上での問題点をインタビュー。さぁ、みんなで考えてみましょう。

—資料によりますと14歳でホームレス問題に興味を持ったとありますが。大阪のどちら出身なんですか?

川口:高石市ですね、堺市の南になります。中学に入って電車通学が始まって、新今宮駅で乗り換えをしていたところ、新今宮駅のあいりん地区の情景を見て関心を持つようになりました。ただ、周囲の人からは、あいりん地区には近づいてはいけないっていわれるでしょ。

—女性だったらなおさらですよね。

川口:そんなことを周りにいわれるに従って、あそこに何があるのかなって、何かが隠されている感じがして、いろいろ調べると炊き出しが毎日行われていて、ホームレスの人達が日本で1番多いという情報が出てきました。それで興味を持って炊き出しに参加したところ、当時の大阪市では年間213人が路上で凍死や餓死されていると知りました。私はホームレスの人をあまり良く思っていなかったので、怠けていたから、楽だからホームレスしてるのかなって。

—僕らも親の世代にいわれたのはそんな事です。

川口:ただ、年間に213人も無くなる生活って楽ではないですよね。ホームレス状態になる理由もその人のせいといえる事ばかりでなく、社会構造が問題なのに、一度ホームレス状態に陥ると脱出が出来ない事に問題を感じるようになりました。

社会全体の構造が問題

川口:でも、まだ中学生だったので、何ができるかといったら何もできなかったです。ただ当時、中高生によるホームレス襲撃事件が起きていて、それなら防止できるのではないかと講演活動を始めました。その中で、もっと専門的に勉強したくなり、その方面の大学に入り、大学2年生の時に立ち上げたのが、このHomedoorです。

—Homedoorさんの中にはいろいろ事業がありますが、メインはレンタルサイクル事業ですか?

川口:基本的に8つくらいの事業をやっていて、どれも同じくらいの事業規模でやっています。どんな人でもやり直したいと思ったら、やり直せる。そのために必要な事業をおこなっています。

—場所が大阪の北区エリアにしたのは理由があるのですか?

川口:HUBchariを行政と一緒に北区でやるようになったこともあり、また気軽に遊びに来れてアクセスしやすい場所に拠点を作ろうと2013年に北区に引っ越してきました。

どんな人でもやり直したいと思ったら、やり直せる。

川口:北区に根を下ろしてわかったことが釜ヶ崎の地域と違って、このエリアにもホームレスの人が多くいらっしゃるのに支援団体の数が圧倒的に少なくて、何よりおっちゃん達が集える場所がないんです。

—釜ヶ崎と梅田のホームレスの人は違いますか?

川口:釜ヶ崎は日雇い労働者の街だったので、日雇い労働者の人が高齢や病気を理由に仕事ができなくなってホームレスになることが多いんです。北区は、リストラや倒産で、とりあえず大阪に行けば仕事があるとやってきた方が多く、ホームレス状態になったばかりの人も多い傾向があります。

—噂ではどんどん貧困問題が深刻になっていると聞くのですが。

川口:ホームレス数は激減していると厚生労働省の発表ではいわれています。2003年に25,296人いらしたのが、2015年には6,541人となっています。数としては減っていますが、ネットカフェ難民と呼ばれる、厚生労働省の調査には含まれない、広義のホームレスの人が増えていると言われます。

—昔、大阪の中之島あたりはブルーシートだらけでしたもんね。

川口:今はテントや小屋で生活するする人はかなり減っています。テントを持たずに路上生活をする人が増えると、目視でホームレスの人かどうか判断するのは難しく、調査が難しくなります。

—年齢的にはどうですか?

川口:厚生労働省の調査では平均年齢が59歳なのですが、Homedoorに相談に来られる人は、平均年齢は47歳(2015年)です。というのも、当法人に来られる相談者は広義のホームレスの人が多いからです。ネットカフェなどで夜を明かす人に対してもアプローチしている結果だと思います。

—この取り組みをやる一番のきっかけは何でしょうか。宗教的なことや、特別な思いがあったのでしょうか。思いつきだけでは続けれない取り組みだと思います。

川口:一番最初は、罪悪感が大きかったです。一度もホームレスの人と会ったこともない、喋ったこともないのに大人から聞いた事だけで「ホ—ムレスになったのは自己責任だ」と決めつけていました。でも、実際に話をしてみると全然違った時の申し訳なさを感じて。それを感じたなら、知って終わりにするんじゃなくて、問題を知ったからこそできる何かは無いだろうか。知った責任みたいなものを感じ、その時に自分ができることをやってきました。

感じたなら、知って終わりにするんじゃなくて、
問題を知ったからできる何か。

—立ち上げの時は学生だったのですね。

川口:そうです。立ち上げは私含めて3人で立ち上げました。ただ、大学3年生の時に他の仲間は、就活するというので、1人になって。中高の後輩に声をかけて、そこからは徐々に人が増えていった感じです。

—お手本にされてる団体とかありますか。

川口:ニューヨークのコモングラウンドを参考にさせていただきました。ホテルを改造して、ハウジングファーストの考え方から住まいを提供し、コミュニティを形成していく手法が参考になりました。

—でも支援企業を見るとそうそうたる名前がありますね。

川口:企業様の御協力は本当にありがたく、HUBchariの拠点としてビルのデッドスペースなどを貸していただいています。

—Homedoorさんは寄付に頼らずに事業収入で自立してる気がします。

川口:そうですね。NPOには5つの財源(事業収入、行政委託、補助金、助成金、単発寄付)があるといわれていて、その5つをバランス良く組み合わせるかが大事だといわれています。そのため私たちは、逆に事業収入が多くて寄付が少ない状態なので、そこに問題意識を持っています。

—そうなんですか、それは意外ですね。

川口:やっぱり事業収入だけだと不安定なので。ホームレス状態の方にもしっかり働いてもらってお給料をお渡ししたいと思っています。そのために寄付という土台を作り安定した運営ができればと思っていいます。
ただ、自己責任論が根深い日本で、ホームレス問題に寄付をしようと思っていたくことは難しいというのが現状なんです。

—僕たちは電力自由化のタイミングに合わして、過疎で耕作放棄された場所で地域電力発電所を作って、地域の電力会社を作る。そうすると税金とは違う、自分たちで使えるお金を自分たちで獲得して、それを元にしながら再生を図っていく。助成金や補助金、国や行政に頼らずに人が繋がりながら地域の価値観を変えていこうとアクションを起こしていますが、やっぱり寄付は重要なんですね。

川口:社会企業としてビジネスで全部回るというのもあるのかもしれないのですが、私達は当事者とともに事業をおこなっているので、100%ビジネスで行うというのは難しいのかなと思いますね。

—路上脱出の理想的な展開はどんなところですか?

川口:私たちが描いているのは、「とりあえずあそこにいけばなんとかなる」と思ってもらえる安心して相談できる場の提供と、その方に応じた複数の路上脱出の方法を提案することを大切にしています。

—就労支援もやるんですよね。

川口:そうですね。事務局が支えになり路上脱出ができて、本人が希望する家と仕事を得られ、自分らしい生活をしてもらうことが理想です。

—それは中々難しいものですか?

川口:それぞれに深い事情を抱えてらっしゃるし、6割近くの人が何らかの障害を抱えていらっしゃるという調査も出ており、一筋縄ではいかないですね。

—Homedoorのスタッフは今どれぐらいいますか?

川口:事務局の常勤スタッフが4名。就労支援として雇用している当事者が20名ほどいます。そしてボランティアとして、500名ほどの方にご登録いただいています。

—周りの環境は少しづつ変わりましたか?

川口:理解してくれる人は増えたかなと思います。企業さまも積極的にサポートしてくれるようになりました。

—そうなんですね、話を聞いて心強くなりました。

川口:私自身が14歳から問題に取り組みだして、路上脱出の方法として、「あったらいいな」を実現させてきたので、その意味でも新しいのかなと思います。特にHUBchariは利用するお客様が、これがホームレス支援や自転車問題解決につながると知らずに、使っていたらいつの間にか問題解決につながっている。そんな切り口をご提供できるのはいいなと思っています。


川口さんにインタビューした後に、一緒に炊き出しを作るお手伝いをして、商店街を歩いてホームレスのみなさんに食べ物を届けるお手伝いを一緒にしました。身近にある貧困問題。この現実を見過ごすのではなく、気がついたなら知った責任を感じ、その時に自分が出来ることをやってきたという川口さんの言葉が心に残る今回の取材は、いつも以上に感情を刺激される取材になりました。

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