#72  研進 出繩貴史さんインタビュー

アイデアと工夫で新規事業を立ち上げ、商売として成立することにこだわりながら社会福祉と向き合う。
今回は、福祉の新しいビジネスモデルを次々に提唱している㈱研進の出繩貴史代表にお話を伺ってきました。

それが、研進。

Happy:どんぐりプロジェクト、あれ凄いですよね?

出繩さん(以下、出繩):「いのちの森づくり」プロジェクトですね。福祉・環境・教育・労働の連携を目指し、もう12年目になります。
宮脇先生(横浜国立大学名誉教授)の潜在的自然植生理論に基づく「その土地本来の木による本物の森づくり」を目指し、ドングリや木の実から植樹用のポット苗を栽培し植樹を実践して来ました。苗木の提供本数は累計25万本を越えたんですよ。

Happy:研進さんは、社会福祉法人進和学園の授産事業推進管理を担われているんですよね?要するにプロジェクトと障がい者の方の中継ぎ役といったところでしょうか?

出繩:そうです。どんぐりや木の実から苗木を育てることは、障がい者ご本人の豊かな情操を育み、心の自立にも繋がります。自分たちが力を合わせて育てた苗木が各所に根付き、見事な森になる事は「生き甲斐」にもなります。
そして、苗木の販売収益や作業に係る労務の代償として工賃を得ることによって障がい者ご本人の経済的な自立を図ることを目指しています。

Happy:出繩さんは福祉系の事業に元々興味があったんですか?

出繩:全然です。興味というか、全く知識もなかったです。保険会社のごく普通のサラリーマンでしたし。
始めたのは親父と叔父なんです。長男の親父は本田技研に勤めていて、次男の叔父・出繩明が進和学園を作りました。
2人は戦争に徴兵されてるんですが、叔父は特攻隊志願で、当然戦時中は大変な想いをして、戦後も大病を患ったり色々あって命拾いして、その後平塚盲学校の先生をやっていました。
昭和33年ですから、障がい者福祉なんてのはまだまだ次の次だった時代です。そこで知的障がい児たちの大変な状況を知ったそうです。
それで、自宅を開放して民間の福祉施設を作った。
自分の教え子とかその周りにいる人達の社会性をサポートしていく施設です。
当時、知的障がい児が30名。それが進和学園の始まりです。

Happy:そこから様々な試行錯誤があって成人施設に転換し、研進も設立されたと?

出繩:児童の成長に伴い施設も拡充し、自立支援も考えなきゃになりました。 どうしようかって、いろいろ仕事を探して。小学校のトイレの掃除とか色んなことをやったそうですが、なかなかいい仕事がなくて…。
そんな時に井深大さん(当時ソニー会長)から、ソニーの木工スピーカーをやろうって話が出て。実は井深さんには進和学園の理事をお願いしていた時期がありましてね。
もう一方で、うちの父・出繩光貴が本田技研に勤務していた経歴から、ホンダさんと学園との架け橋になって「ホンダ車部品組立加工」の仕事を請け負う道が開けた。
井深さんと本田宗一郎さんは盟友っていうこともあったみたいですね。
まぁそんなこんなで親父が窓口会社作ることになったんです。本田技研の研と進和学園の進で(株)研進です。昭和49年だから45年前ですね。

研進もOne of themとして勝負

Happy:やっぱり走り出しは困難の連続?

出繩:そうですね。ホンダさんからインジェクションマシンだ、プレスだとか大型機械類を無償貸与して頂きました。正に、ホンダさんの親身なるご指導の下に立ち上がった訳です。最初は、難しいことはできませんし、2輪オートバイと、耕運機とかのボルトにワッシャーを通したりナットをくっつけたりとか、そういう極めて単純な作業からスタートして。それでもミス連発で随分ご迷惑をお掛けしたようです。

Happy:70年代の日本は、まだ余裕があるというか…右肩上がりな時代だったからですかね?

出繩:当時は障がい者雇用促進法なんてまだまだ整備されてない時代ですが、いくつかの企業が共同出資して障がい者の自立の為の施設・太陽の家さんとの合弁で特例子会社ができたのもこの頃で。志ある人たちが動き出した時代だったんですかね。
障がい者の方が同じ給与水準で親会社に入っていっても、なかなか難しい。だから子会社を作って別の給料体系を設けた訳です。
健常者、障がい者っていう呼び方っていうのが本当はおかしいのかもしれませんけど、当然ハンデのある部分については、社会保障としての障害基礎年金で補てんされるべきですよね。自助努力しても足りない部分は、国が支援する仕組みです。

Happy:そんな時を経て、今では納品されてる商品の質が高くて表彰されたりしてるんですよね?

出繩:これはもう大変な努力ですよね。もちろん現場も頑張ってるけど、発注企業さんであったり、支援いただいたボランティアの方々も大勢いらっしゃいましたし、みんなで一緒に改善してきたということです。
ホンダさんは、元々、この事業を福祉とはみなしていないんですよ。直接取引をしている企業が320社近くあるんですが、研進もその中のone of themなんです。

Happy:ある意味シビアというか、同列の関係ってことですね?

出繩:はい。僕が親父から引き継いでからは、とにかく品質保証と工程管理を徹底して来ました。大きく変わったのは2007年にISOを取得したことですね。これはね、ホンダさんから言われたわけでもなく、研進からでもなく、進和学園から出てきたんです。現場からこのままじゃいけないってね。
福祉の現場って、ルールを決めたことは本当に愚直なまでによく守ってくれるんです。これは立派ですよ、すごい能力です。頭のいい人はルールは知ってるけど、要領よくやろうとしたりするから。早く帰りたいから、ちょとこうやっちゃおう!とかね。だから、今ミスを犯すのは、もう99.9%職員です。残業になって、職員だけで対応する時にミスが出るわけですよ。
でも、例え、ミスしても私の経験上「ピンチはチャンス」という捉え方が重要かと思います。

出繩:ピンチの時は、次のリカバリーショットの打ち方で信頼を得るっていうのがあります。これ、ホントに大事なことです。だからそこはもう、徹底的にやりますよ、リカバリーショットを。発生原因と流出原因とかね。そして全部早急にレポートします。
今日ミスしてしまった、明日はどうする?原因がまだわからないってケースは、暫定対策として、明日ダブルチェックするとか、あるいはトリプルでやるとか。職員がチェックして、大丈夫なものだけ出しますとか。
そのうち原因がわかってきますから、それで根本治療に入ります。
その後、ホンダさんが現場にチェックに来られミスの原因となったネジを見て「同じ長さのネジが2本あることがおかしい。こちらの製造設計に問題がある」と問題を持ち帰られたこともあります。
それで部品の共有化につながり無駄が減ったり。ちゃんとビジネス的に向き合えているんです。

ビジネスモデル拡大と多角化へ

Happy:次々に広がりを見せる新規事業についても聞かせて下さい。

出繩:まず、初めに出た「いのちの森づくり」プロジェクトですね。
苗木ってね、どんどん育つんです。どうしても売れ残る苗木が増え過ぎて、行き詰ってしまったのです。みんなの工賃が出ない!どうしようってなったんです。それで立ち上げたのが「いのちの森づくり友の会」。その会に、プロジェクトを応援してくれる個人・団体・企業さんが増えて、寄附金も集まり始めました。今年もたぶん1千万円以上集まると思います。今5年連続で1千万円を超える基金になっています。

Happy:サポーターの方々は福祉活動をサポートすると共に、植樹活動も支援してることになる訳ですね?

出繩:はい。私たちは苗木を育ててプレゼントするだけじゃなく、植えて下さいって学校があればすぐ行きますよ。今は学校だけではなく企業から依頼されるケースもあります。そして植えたあとのメンテナンスもウチがやるので、こちらも仕事として継続する。生意気言ったら新しいビジネスモデルですよね。

Happy:そして更なる新プロジェクトがホットケーキ?!

出繩:そうですね。これは「いのちの森づくり」を発信するお店という意味もあるし、多角化の一環でもあるんです。
以前は進和学園の喫茶店があったんです。学園の象徴であり、たまり場であり、福祉を発信するお店で、神奈川の「ともしび財団」が助成してくれてたんですが、財政難を背景に助成ゼロになって…それで一旦は閉めちゃっいました。
けれど、やっぱり凄く残念で、何とか再建して活性化できないかって想いで始めたのがジャパニーズトラディショナルホットケーキのお店「湘南リトルツリー」です。こだわりは、福祉色は一切なしにして勝負しているところ。
今は、東京の有名店「フルフル」さんと業務提携して親身なご指導も頂いています。進和学園のトマトジュースを置いて貰ったりもしています。

Happy:今後はどう発展していかれるイメージなんですか?

出繩:う~ん、わからないですけど10年後20年後…進和学園っていえばあのホットケーキパーラーのチェーンのあれですね!って言われたりするかもしれませんね?湘南トマト工房のあのトマトジュースですね?とかなるかも。まぁ色々やり過ぎているので、今後は、選択と集中の時期かもしれません。そう言いつつ、「いのちの森づくり」プロジェクトでは、目下、「里山ユニット」という新しい苗木プランターの製作を請け負うことも始めました。
とにかく福祉そのものをボトムアップして、自立可能な福祉的就労の広がりを目指していきたいですね

Happy:出繩さん、有難うございました。

働き甲斐=何を残すか?と話して下さった出繩さん。札束や株券を残すより木を植えて森を残す方がいい。それこそ生きた教育でしょう!という「いのちの森づくり」プロジェクトの考え方には共感を覚えます。
まずは、「湘南リトルツリー」に絶品ホットケーキを食べに行ってみたいですね。

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