#45  都会の田舎で自給自足 家畜福祉の磯沼ファームスタイル

都会の中の田舎暮らしときいてどのような環境をイメージしますか?お買い物するおしゃれなビルまで電車や車でサックっと行けて、自家用の畑や田んぼが徒歩圏内にあり、牛や馬なんかとも暮らしている。
食糧のほとんどが、自給自足で現金があまりいらない。当然エネルギーも薪ストーブとソーラーパネルの併用でほぼ自給自足・・・ そんな暮らしに憧れたりしませんか?
僕も憧れて挑戦しましたが大失敗しました。
そんな僕の(皆さん)理想とする暮らしと「牧場」経営を成立させているに実現されいてる達人が、田舎の僻地ではなく東京の郊外にいると聞きいそいそと八王子にいってまいりました。

―代々牧場を経営されているんですか?

磯沼さん:いやいやいや、僕は2代目なんです。トータルで60年くらいですかね。今の形になって30年。

―昔は、このあたりも牧場だらけだったんでしょうか?

磯沼さん: 僕が小さい頃は7、8軒ありましたね、牧場が。父親が野菜作りの勉強をして野菜を作ってたんですけども、途中で乳業を取り入れてきた。

―入り口の看板に家畜福祉と掲げられていましたが、「家畜福祉」初めて耳にしました。

磯沼さん: ヨーロッパでは主流となっている「アニマルウエルフェア」という概念でより安全で美味しい畜産物をとるにはどうしたらいいのか?を追及した結果行きついた考えなんです。
有機畜産とかいろいろ言い方はあるんですが、要するに牛が健康でなければいけない。牛に5つの自由(※)を提供することで牛が幸せな形に近づく・・。

1.飢えと渇きからの自由(きれいな水と十分な栄養が与えられているか、など)
2.肉体的苦痛、不快からの自由(清潔な場所で飼育されているか、など)
3.外傷や疾病からの自由(きちんと治療されているか)
4.精神的ストレスからの自由
5.正常な行動の自由(十分な広さが与えられているか、など)

磯沼さん:日本国内では、畜産っていうのは経済動物っていわれるものだから、生産効率や経済性に重きをおいて、家畜を虐げる環境において生産しなきゃならない。そんな経済合理主義の専門家も多いんです。
僕は、逆で家畜に快適な環境を作ってあげて、彼女たちが幸せな状態でそこから生産物を頂くと美味しさにもつながるし、より未来型の長く続く、サステイナブルな形になってくるんですよ。

―美味しさを追及した結果 家畜福祉に行きついたと?

磯沼さん:そういうことです!
30年も前からこんな感じでやってます。
牛も放し飼いにしています。うちで産まれた牛たちは、いちども繋がれたことがないんです。牛は行きたいところに行き、食べたければ食べるし、仲間とコミュニケーションしたければそれも好きな時にできる。

―確かにそれは、ストレス少なそうですね。味も全然違うんですか?

磯沼さん:牛乳自体も味が変わし、豚も脂肪分の中にオレイン酸が増える(オリーブオイルの成分と同じ)。
美味しさにも確実に変化は出てます。大量生産してコストを下げようと思うと、いろんなことをしなければならないんですが、それを考えるとこのやり方の方がしっくりとくる。
しかも、家畜が快適な環境を追及すると周りの住民に対しても余計な臭いがでないので共存できる。
家畜の寝床づくりのためにうちでは、珈琲工場からコーヒーの粉とか皮とか豆殻を、チョコレート工場からはカカオの殻を引き取ってきてるんだよ。運賃は自前だから月に20万円ほどはかかるんですけどね。

―他の同業者からみると無駄なお金使ってると思われそうですね。

磯沼さん:他の牧場でできないのは、お金の問題とスペースが増えちゃうからなんですよね。

―飼ってる牛の数が多いからってことですか?

磯沼さん:出てくる糞が増えちゃうわけですよ。なんにもしなければ、10の糞で10の場所があればいいでしょ。
10の場所にコーヒーココアを入れるわけですから20になっちゃうんですよ。
こうすると片づける人も倍、場所も倍必要なわけですよ。
みんな手狭なところでやってるわけですから。
本当はそういった貴重なスペースは仔牛を育てたり、色んな事にしたいわけですよ。堆肥にするには、寝かせる期間も必要だしね。

―経済的効率よりも家畜の快適さっていうことなんですか?

磯沼さん:そうですね。だから一番がお金ではなくて、一番が環境とか牛の健康とかそういうふうになるわけですよね。そうやってコスト、手間暇をかけて いくことによって、牧場の環境が改善されたり臭いが収まったり。臭いがしたんではね、長くはできないんですよね。こういった町の中の牧場は。

―そうですよね。追い出されちゃいますよね。

磯沼さん:昔からいた人も働いてる側もこういった臭いに付き合わされるっていうのは勘弁してもらいたいしね。
お陰様で今は、珈琲ココアを1日に1トン撒いて、朝まで乾いたところで牛が寝られる。乾いたとこからは臭いが出にくいし虫もわかない。
僕も40年ちょっとやってますけども、糞尿処理は完璧に近いですよね。

<屋根貸し市民発電所>

―そういえば、牛舎の上にソーラーパネルが敷き詰められてますよね。

磯沼さん:八王子共同エネルギーさんということろが主体でみんな電力さんに売電されてるみたいです。牛舎の屋根を貸してもらいたいということで始まったんですけどね。
20キロワット、まあ、そんなに大きくないんですけども。市民出資でお金集めたそうです。

―屋根貸しですね。

磯沼さん:1年間に5万円。1日に100円。(笑)
これもお金うんぬんというよりも、牧場の屋根で作られた電気が家庭のコンセントに繋がってるのが面白いなーと思ってる。ミルクと電気がおうちに…
牧場と家庭が、いろんな形でつながるということが、循環として面白い訳ですよ。

―糞尿を利用したバイオマス発電しようかななんて計画は?

磯沼さん:バイオマスの発電は考えたことはありますけども、メタンガスを作っても廃液が出るわけですよ。メタンの廃液がね。液肥として農業地帯であれば使えるんですけども
臭いは少ないとはいえ、若干臭いはするし、液肥として供給しようにも場所がないんですよね。
ドイツなんかでは、地下にこういう尿ダメがあって、そこで半年とか貯めたやつをこういう液肥として撒くんですけど。そうするとその撒いた肥料はコールドレインって言われるんですよ。

―SMでは、ゴールドシャワーとか言いますもんね、おしっこのこと。

磯沼さん:ゴールドレインね!臭いも最高に匂う訳ですよ。これは春の臭いだっていって(笑)
だからといって垂れ流すと河川を汚染するんだよね。これ非常に深刻な問題で、やっぱり適正に管理しなきゃいけないってことで規制が強くなって、どんどんこういう畜産物っていうのは生産が難しくなっている。

―逆風の中、さらに経済的な合理性を一番にしてないのはすごい挑戦ですね。

磯沼さん:そうです。だからいつまでも貧乏(笑)

―一応経済的なところもいりますよね?今の社会で生きぬくには。どうやってバランスをとっているんですか?

磯沼さん:経営者はボランティア。残ればよかったね!みたいな・・
この牧場で3人、養豚場で2人、セデオっていう駅ビルの方にも直営店がありますので、そこのアルバイトさんも含めるとお給料をだしてるのは、20名弱はいます。
彼らには家族もありますから、自分の取り分を最後にしてます。
だから下手なことをしたら、どんどんどんどん自分が苦しくなってくる、個人的に持ち出す、会社には怒られる・・そんなサイクルです(笑)

―順調ですか?

磯沼さん:順調じゃないですよ。借金まみれ。まぁ、どうせ牛を飼うんだったらとことんやりましょうということですね。ここの場所でできる最大のことをやるためには何が必要かを常に考えて行動しています。だけどお金だけは、なんとかかんとかかき集めて借りてやるだけやって結果が出れば、いつかなんとかなるっと思ってやってます。
とにかく丁寧に牛を飼う、うちのヨーグルトの工法はたぶん世界一小さいヨーグルト工法。牛一頭の一日分のミルクでもヨーグルトができるっていう形をとってきたので。個性のあるこだわりのヨーグルトはできるんですよね。

―そこで商品としての差別化も生まれてくるんですね。

磯沼さん:そうですね。差別化っていっても一生懸命やってますよっていうだけなんですけど。ま、求める人にとっては「こういうヨーグルトと出会えてよかったみたいな」。
昨日初老のご婦人が来られてヨーグルトを買っていってくれたんですけども、このヨーグルトのお陰で命が繋がってますって。
その人は癌で、治療をしてるらしいんですけど、やっぱりお腹の調子がよくなってくんだそうです、栄養もとれるし美味しいし。

―美味しく食べれてお役にたてるとすれば自分としては一番うれしいですよね。

磯沼さん:やりがいに繋がりますよね。そしたら、あぁ、この方向で間違ってなかったなっみたいになるわけです。
こないだも、大手の乳業メーカーの開発者が3人ぐらい来ていろいろ見させてくださいって、吹けば飛ぶようなこんなところに(笑)。どんな勉強になるのかなって(笑)
お陰様で評判はいいんですが、こんなスタイルなので沢山作れないんだよね。
いくら注文があっても沢山作れない,経営的な限界。
実際にはお金はありがたいので売れた方がいいわけですけど。
より沢山・安く作ろうとすると結局牛をいじめなくちゃいけないっていうことになっちゃったり。
だからやっぱりこういう手間暇かけて作って、この価値を認めてくれる人が利用してもらえるっていうことが一番だね。

―いいものだけを作っていればそれでいずれ誰かが気づいてくれる?

磯沼さん:ブレイクスルーしなきゃいけないね。
ちいちゃく丁寧にやってても売れない。ちいちゃく丁寧にやってるのを売るにはどうするか?ですよね。
何故これをしてるかっていうことの自分への問いかけを外に向けてやらなきゃいけない。作るのは自分の思いと状況があればできてくわけですよ。
いくらいいものだってできてくるわけだけど。
それをなんでしなきゃいけないのか? なんでこれをすることに意味があるのか? 何故人はしないけど俺はするのか?
それをアウトプットしなければいけないわけね。それを知らない人にも伝えなきゃいけない。それはすごいエネルギーがいる。

だからそれを伝える努力をしなきゃいけない。毎週日曜に体験教室をやるんですけども、そういった体験会を平日でもできるようしたりとかね。お客さんに気軽に牧場に来てもらって、楽しんでもらえるような場所・状況づくりをしていけば、大概納得して買ってもらえる。
それに、うちみたいなプリミティブな環境だからこそ、牛が幸せな状況をつくり、そこで牛のミルクを取り出して、その素材を活かした作り方を無添加でやるのも大切だよね。 だから「瓶」にもこだわってる。
「瓶」っていうのはスチームとか熱湯で消毒できる。
だけどプラスチックは熱湯をかけられない。だから薬剤を使って殺菌するという形になる。
要するに、内側にこだわりつつも自分を外向けに作り替えていくというのが必要だね。
どこでも呼ばれたら話しに行くしね!

facebookも、ほぼ毎日更新。後2人で3000人になるんですよ。
牧場で牛の一番近くにいて仕事をしてる人でfacebookで発信してる人は、少ないんですよね。
実際に仕事が忙しければ、順調にいってればfacebookなんか見てる暇がないんです。だけど自分をポジティブにしていくためにも、そういう情報発信を自分が感じたことを出していく。そういうことを情報として面白いと感じてくれる人も沢山いるわけですよ。

磯沼さん:牛のそばにいる人がこんなこと言ってるっとかね、こんなことがあったんだっとかね。
自分がこだわってやってるってことを常に発信し続ける。
人のネットワークの中で生きてるわけであって、お金が回ってればそれでいいかっていうことではないからね。
やっぱり自分の仕事っていうのは、お金じゃない形の成り立ちってのを考えぬくと、色んな人が利用してくれて、初めて成りたっていると思う。
だからオープンファームで来たい人どうぞってなってるわけだけど、やっぱりそういう、自分ができる社会貢献じゃないけど地域に貢献っていうことは出来る限りやらないといけないっていうかね。
お金だけじゃない、人によって支えられてるっていう部分がね。人の気持ちによって支えられてる部分っていうのがあるわけですからね。
やっぱり「人」に答えっていうのがあるんじゃないのかな。

お金を2番目に置いたビジネスモデル。薪を使ったり、お米も自給自足したりとなるべくお金を使わない暮らしを実践されている経営者だからこそできるのかも知れませんが、必要としてくれる「人」と繋がる。内側のこだわりを閉ざすことなく外側の他人とコミュニケーションする僕ら暮らしに応用できそうですね。

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