#26  おてらおやつクラブ

今回は愛知県の春日井市の林昌寺副住職で<おてらおやつクラブ>事務局の野田芳樹さんに会ってきました。夏休みの子供達がお寺の中にポケモンGOをやる声と蝉の声がミックスされる中で聞いた<おてらおやつクラブ>のお話です。さぁ、みんなで考えましょう。


— おてらおやつクラブ代表の松島靖朗さんが創始者になるのでしょうか。

野田:はい、松島が始めて代表を務めています。「おてらおやつクラブ」は、お寺にお供えされるさまざまな「おそなえもの」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、全国のひとり親家庭を支援する団体との協力の下、経済的に困難な状況にあるご家庭へ「おすそわけ」する活動です。


— 最初の始まりは?

野田:キッカケは2013年におきた大阪での母子餓死事件でした。飽食の日本の世の中で、一日一食の食事にさえ困る家庭がある。室内に食べ物はなく、電気ガスも停止、生活に困窮して餓死した可能性が高いという事件でした。そんな痛ましい事件が伝えられた時、二度とこんなことが起こらないよう「お寺に何かできることはないか?」と松島が考えたことから始まりました。

お寺によってお供え物が多いお寺も少ないお寺もありますが、どのお寺も檀信徒や地域の方々によって支えられています。有り難いことに様々なお供え物を日々いただきますが、すべてを消費できずにムダにしてしまっていました。お寺には食べきれないほど食べ物があるのに、一方で餓死するほどの家庭もある。この偏りをなくすことができるんじゃないかということで、活動をスタートさせました。

— どのように活動を広げていったのですか。

野田:大阪でひとり親家庭支援を始めた団体と松島が協力し、まず松島のお寺から試験的に「おそなえもの」を送るようにしました。それがうまく機能する感触を得て、2014年1月から正式スタートしました。まずは松島の地元の仲間と、そしてインターネットで協力してくれるお寺を募集したところ、すぐに10数カ寺が参加してくれました。

— 見守りサービス的な事もされてるのでしょうか。

野田:お寺の役割は基本的に支援団体の「後方支援」です。ひとり親家庭の親子にとって、貧困問題を専門的にサポートする支援団体との繋がりが何より重要。お寺は「おすそわけ」を通じて、ひとり親家庭と支援団体の関係をより深めていただくお手伝いをしています。

お寺は日々法務もありますので、時間的にも経験的にも貧困問題の専門領域に入っていくことは困難です。しかしお寺にあるお供え物を送ることを通して、支援団体にとって活動の後押しを物心両面で行い、ひとり親家庭にとって「自分たちを思う人がいる」と安心を与える存在になることは可能ではないでしょうか。実際、おすそわけを手にされたお母さんから「見ず知らずの方が私たちのことを思って考えてくれて有り難い」と「見守り」を実感してくださったお言葉を頂戴しています。

様々な形で広がる問題

—シングルの家庭だけでなく、経済的にきびしい家庭も増えているんですかね?

野田:そうですね。日本の貧困率(相対的貧困率)は16%を超え、6人に1人が貧困状態にあるといわれています。しかしそれ以上に、ひとり親家庭に限ると貧困率は54%を超えて、過半数が貧困状態という深刻な事態です。

—僕たちもコミュニティ食堂をやっていてボランティアの参加希望は多いのですが、貧困が見えないというか、わかりづらいのかなと思っています。

野田:そこが、この貧困問題の悩ましいところです。貧困が見えづらく、その親子を見つけられない。問題が見えづらいので周囲に理解されず、対策が進まないという悪循環に陥っています。

—そうですね。ニュースでたくさん報道されていますが近所にいてる?そんな感じです。

野田:当事者の方が「助けて」と声をあげれないことも問題です。自己責任論の強い風潮のせいで、「助けて」と言うことすらはばかられる世の中になっているのが残念でなりません。おてらおやつクラブは「おすそわけ」を通じて、当事者が「助けて」と支援団体へ声をあげられるよう仕組みを整えています。

シグナルを発信できる環境

—みんなカワイイ洋服を着ていますが、そんな問題を抱えているのですね。

野田:つぶさに観察しないと見逃してしまいます。学校の先生は毎日見ていますから、いつも同じ服を着ていて洗濯していないとか、一足しか靴を持っていないのでひどく汚れている、などの違和感に気づけます。でも子供も親も自らを貧困と思っていなかったり、貧困と気づかれないようにしています。

—確かにそうです。行くと貧乏のラベリングされますから。

野田:だから見つけるのが難しく、助けてと声をあげるのが難しい状況にあります。

自己責任論を考える

野田:貧困問題が最近多く取り上げられていますが、世間の受け止め方は自己責任論に終始しがちです。特にひとり親家庭に対してはその傾向が強く、「勝手に結婚して、勝手に子供を産んで、勝手に離婚した」と決めつけられてしまいます。

—仕事に関してだと、君の努力が足りない「もっと頑張れ、頑張れるだろう」といったものです。

野田:どんな問題でもそうなのですが、昨日今日で始まった事ではなく、いろんな要因が重なって問題となる状況が出来上がってるわけです。その複雑な原因を無視して、自己責任論に結論づけるのは極論ですし、何の解決にもなりません。

—自己満足といいますか。

野田:支援する側はいつの間にか「良いことをしている」という自己陶酔してしまったり、使命感が強すぎて「もっと救いたい、もっと救えるはずだ」と押し付けがましくなってしまう危険性があります。常に当事者に寄り添い、支援する側と支援される側という垣根を越えて、この貧困問題をなくしていきたいです。


今回のインタビューでエネルギー問題と、貧困など僕たちが抱えている社会問題との類似点が浮き彫りになった。コミュニティ食堂などのソーシャルアクションの課題やボランティアについても、もう一度考えるきっかけにもなりました。
そしてサポートしあえる地域コミュニティと多種多様な仲間作りは同じベクトルを向いている、エネルギーもそうだなぁと、太陽が輝く中で汗をぬぐいながら考えた。


【おてらおやつクラブ】
ホームページ: http://otera-oyatsu.club
Facebook : https://www.facebook.com/oteraoyatsu

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