#33  「素人の乱5号店」店長 松本哉さん

高円寺にあるリサイクルショップ「素人の乱5号店」の店長、松本哉さんは、よくわからないけど面白いことをして楽しく生きていこうとする集団「素人の乱」の主催者である。反原発デモを率いたりしたこともあったが、活動はかなりユニーク。高円寺の駅前でコタツを出して鍋をしたり、自転車返せデモ、家賃タダにしろデモなど、デモの特性をうまく利用した、おちょくったデモをして毎度話題をさらっている。既存の左翼の発想では到底思いつかないやり方で、警察などとやりあっているのが、面白くて、ついつい注目してしまう。その松本さんが、海外にバカスポット探しの旅に出て、どんどんバカスペースを見つけ、共闘しだしたのは震災以降。東アジアの同志たちと夜な夜なバカスペースで飲んだくれの日々。国家が気に入らないなら、もう自分たちで心地よい空間をつくって勝手にやっていくしかないという松本さん。革命とはならないところが現代的。そんな松本さんに、素人の乱の活動についてうかがってきた。

外に目を向けてみると、同じことをやっている人がどこにでもいるんだと感じた

―松本さんが東アジアの面白いスポットを探して、面白い人たちと繋がる活動に興味を持ったきっかけを教えてください。

松本:本当の初期の初期は、昔、バックパックで旅行していた大学生の時からアジア圏は面白いなというのは薄々あったんです。でもその時はただ遊びに行っているぐらいで。震災と原発事故以降ですね。僕らも反原発デモをやったりしていたんです。そのとき、日本の中だけで考えているとよくないなと思ったんです。外に目を向けると、他の国も悪くて、いい国なんてあんまりない。でも同じことをやっている人はどこにでもいるんだなというのは凄い感じたんです。それで、日本で自分のやりたいことをやったり、悪いものに文句を言ったりするのも大事なんだけど、結局同じことをやっている人同士が仲良くするのがホントは一番いろんな意味で近道なんじゃないかなと。それからです。

―最初、何か偶然の出会いがあったんですか?

松本:2011年に台湾に行った時に、台湾の人たちのセンスがめちゃくちゃ似ていたんです。すごいバカバカしい感じが。それで仲良くなって、台湾にしょっちゅう遊びに行くようになったんです。そうしていくうちに、台湾の人で香港に友達がいっぱいいるよとか、韓国に行った時に、今度マレーシアの人を紹介するよとか、色々知り合いの知り合いみたいな感じでどんどん繋がっていって。どこにでも変なやつはいるじゃんって。

―松本さんが自身のオルタナティブスペースにフォーカスし出したのはいつぐらいなんですか?

松本:やっぱり店を開く頃です。いろんな面白いイベントをやったり、人を集めることはいくらでもできたり、そういうのもよくやったりしてたんですけど。その場限りで終わっちゃったり、スタッフの人は仲良くなるけど、結局来た人ってそれで終わっちゃう。やっぱりいつでも開いていて、会いにこれる場所が欲しいなと凄く思って、じゃあ店だなと。たまたま学生の頃からずっとリサイクルショップで働いていて。それにリサイクルショップって凄くいいんですよ。お客さんが来て、買ったり売ったりするから会話が多いんですよね。「これはなんですか?」とか「これは壊れているんじゃないですか?」とか。年齢層も幅広いし、おじちゃんおばちゃんから若者から来るじゃないですか。それに消費社会の正反対で、物を大事に使うっていう仕事自体も、やってることもいいなと思って。

昔のヒッピーコミューンみたいな閉じた世界じゃなくて開かれたコミュニティを目指したい

―場所を見つけて繫がることで、結局何をどうしたいんですか。

松本:似たようなことやっている人がいろんなところにいてそれが繋がってくれば、困った時になんとかなる確率がどんどん上がってくと思うんですよ。助け合いみたいな感じで。

―セーフティネットみたい感じですね。

松本:そうですね。だから結局今の世の中だと、困ったら死ぬしかない、それか奴隷みたいな仕事をしなきゃいけなくなったりするじゃないですか。年金も怪しいし、社会保障システムとか超怪しいじゃないですか。そう考えた時にそれよりも自分達で助け合ったりするような環境をちゃんと作れば豊かさも変わっていくんじゃないかなと。例えば子供だったら今あずけるところがない、子育てに凄くお金がかかるとか言うけども、この辺に知り合いがいっぱいいたらみんなで面倒みたりとかできるし。自分達のネットワークで生きていったほうがいい。でもかといって自分達のネットワーク、閉じたネットワークだと全然つまんないじゃないですか。山の中に謎のコミュニティとか。

―そうそう。昔のヒッピーコミューンみたいな感じ。

松本:そうそう。ヒッピーコミューンとかは同じような人しかいないからつまんない。それにあまり閉じた感じで何かやると、だいたい人間関係がややこしくなって、それで崩壊しますもんね。やっぱり都市の中にそういうのがいっぱいあって、ただ自分達の仲間というか、似たような発想をしている人もいるけど、関係ない人もいっぱいいるじゃないですか。という感じでやる方がこっちも新鮮だから。全然うちらに対して理解してない人も、普通にお客さんで来たりとかするじゃないですか。

全部を変えるんじゃなくて、自分たちの世界を作っちゃうほうがてっとり早い

―松本さん、あんまり頭でっかちに思想とか掲げないですよね。

松本:そういうのは一番苦手ですね。運動をしている人は、すぐややこしいことを言い出す。ちゃんと自分たちで場所とか人間関係とか生活圏を作っていくのがいいと思っているから、それが考え方って言えば考え方かもしれないですけど。そんくらいですね。例えば昔の社会運動とかやっていた人って、やっぱり全部を変えようとしているじゃないですか。平和な世の中、いい世の中を作ろうと言っているけど、中々上手くいかない。悪い奴は絶対いるし。だからできたらいいのかもしれないけど、それよりも一番手っ取り早く自分たちの世界をちゃんと作っちゃうことってできると思うんですよね。だからそれをやりたいなというか。

―面白いスポットで、次に狙っている国はどことかありますか?

松本:中国の北京は面白かったけど、中国は広いから、もうちょっと攻めたいです。今年、中国の東北地方に行ったら意外と新しいとんでもない奴がいたし。最近中国の広州というところに仲間ができたんです。奥地のほうにまだまだ面白いやつがいる気がしています。あとマカオやシンガポール。そういう絶対マヌケでオルタナティブなんかないだろうというところに、絶対いるはずだから。そういうとこに行きたいです。ウラジオストックとか。ウラジオストック、マカオ、シンガポール今、ちょっと狙いたいです。たぶんいたらそいつは絶対心細い思いをしてるから。超喜ぶはずだから、絶対仲良くなりたい。

日々の辛い生活を我慢しながらデモに行っても変わらない。実践で変えていくのが大事。

―松本さんが思う、世の中を変えるということとは?

松本:世の中を変えるって、結局は自分たちが生きやすい生活圏を作ることじゃないですか。デモに行くのはいいことかもしれないけど、日々の辛い生活を我慢しながら毎週末にデモに行くだけじゃ、絶対変わんないというか。自分の生活スタイルはちゃんとみんなで変えていったり、価値観を変えていかなきゃしょうがない。だから実践をみんなでやっていけたら、少しは良くなるんじゃないかなと思うんです。だから世界中に遊び仲間を作りまくったり変な店を開いたりすることが大事だなと思うんです。あと、ちょっと面白いのは、商店街でみんな知り合いになろうとか、おじいちゃんおばあちゃんたちと助け合ったりするのって、ほんとは超普通のことじゃないですか、本来。でもそれ今、それすら超特殊なことですもんね。だからお金や利害関係とか関係なく人と人が繋がろうみたいなこと自体が、わざわざ活動になってる、そういうプロジェクトがいっぱいあるじゃないですか。変な話ですよね。世の中が変なだけに、実は普通のことをやるのが今1番いいのかもしれない。

―普通のことが特殊なことになってしまっている。そういう意味ではだいぶ壊れてきましたね、社会が。

松本:それがビジネスになってますもんね、完全に。介護サービスのお店ばっかりじゃないですか最近。あれ全部完全にビジネスで凄い金を取っているけど、ほんとは金使うところじゃないですよね、昔だったら。

―生きるのに困ったらとりあえず松本さんのとこに来てみたらいいですか?

松本:そうですね。たぶん死なないでしょう(笑)

神田桂一(かんだ・けいいち)
フリーライター・編集者。一般企業に勤めたのち、写真週刊誌『FLASH』の記者に。その後フリー。『POPEYE』『ケトル』『スペクテイター』『TRANSIT』などカルチャー誌を中心に活動中。

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