#02  太陽ガスの電源トリオ

—地元の方々の反応は?

及川 すごく興味は持ってくれています。ただ、今のところは「様子見」というのが大半ですね。

吉留 自分でやるにはどうしてもリスクが大きい。まずは外から様子を見て、「上手くいきそうだったら自分も」という感じでしょうか。

—ヨーロッパでは、再生可能エネルギーに関してはまず「協同組合」をつくり、そこに地域の方々が出資して、皆で取り組みを「自分ごと」にしながら進めていくと聞いています。

及川 ここに来てから、それをずっと目指してやってきたんですが、自分の力量不足もありつつ、「難しいな」というのを実感として持っています。
 そもそも制度がちょっと違って、日本だとドイツみたいにすぐはできないんだと思います。また、「協議会」も任意団体なので事業はできない。ですので、協同組合みたいなものがもっと簡単につくれる法体制になればと思います。
 ただ、実際のかたちにしていくと皆さんすごく振り向いてくれる。ですから、そういうことを一つでもつくりながら、少しずつ広げていくのが順序としていいのかなと思ってます。

佐々木 及川さんは最近、ご自分で太陽光発電の会社をつくったんです。それこそ市民出資というかたちで、一般市民の方に声をかけて出資いただいて、もう発電を開始したところです。通称「SATOEne」ですね。

及川 「里山のように、人と自然に気持ちいいエネルギー」ということで「里山エネルギー」といいます。ただ単純に自然エネルギーを増やすんじゃなくて、もともと私は環境保護、自然保護に興味がある人間です。ですから、自然にも優しい、人にも嬉しい電気を増やそうと始めました。
 まずその第一弾事業として、市民20人くらいでお金を出し合って、規模は20キロワットとすごく小さいんですが、太陽光発電所をつくりました。それが、ちょうど1週間くらい前から稼動しています。

—すごい!それは、おめでとうございます、ですよね?

及川 やはりそういうのは、かたちにすると絶対違うんです。
 私が重要だと思っているのは、「自分で考えて、何かする」ということです。今まで世の中は他人に任せっきりのまま、原発も、エネルギー問題もここまできてしまった。それが、自分で考えて「原発がやっぱりいい」ということになれば、私はそれも道としてあると思うんです。でも、たぶん「私はそうは思わない」という人も相当数いる。
 これからは、そこが大切な世の中になると思います。エネルギーはそのものが考えるきっかけになります。自分で出資したり、出資してできた電気をどれだけ使ってるか。どれだけ発電してるのか、興味が湧いてくると思うんです。

—出資していれば気になるでしょうし、それが自分で選んだきれいな、格好良い、優しい、そんな想いを乗せたエネルギーであれば好きになれるし、大事に扱うような気がします。

及川 出資してくれた方の家ではみんな発電量を見られます。そういうエネルギーを太陽ガスが購入し、地域の人たちに届けていく。そこに出資している地域の人たちは喜ばしいし、太陽ガスとしても質の高い電気をお届けできることになる。それがまさに目指すところです。

佐々木 ドイツには「シェーナウ」という街があって、そこでは一般市民が送配電網を買い取って、自分たちで電力会社をつくったんです。その一連の顛末がまとめられた「シェーナウの想い」という映画があって、実は及川さんがその映画を和訳して、日本に持ってきたんです。

及川 私は訳しただけですが(笑)。その街は、私のいたフライブルグ市から4、50分くらいのところにあります。映画のDVDは「無料上映会であれば」ということで、上映を希望する団体に随時貸し出しています。Youtubeにアップすることも考えたんですが、ただ家で観ていただくより、人々に集まってもらい、観た後に話し合いの場を設けてもらいたかった。
 家で観ると、「いい映画だったね」ということで、たぶんほとんどの人が終わってしまいますよね。そうじゃなくて、「何か自分たちでできることはないか」という意見を出し合って欲しかったんです。
 非常に面白い映画ですので、是非、各地で観ていただきたいと思います。

佐々木 もう一つ、「どうやったら広がるか」という話なんですが、「環境問題」って堅苦しくなりがちじゃないですか。
 それでこの間、東京で、ソーラー発電で シアター・ブルック というバンドとライブをやってる友達がいて、彼のスタジオに遊びに行ったんです。そこで実際にソーラー発電システムでスピーカーから音を出しているところを見てきて、音も普通の電気よりまろやかで、気持ちよく聴こえて(笑)。
 それで鹿児島に戻ってきて、つい先日、桜島でやってる「ウォークインフェス」という地元のフェスで、そこには地元の高校生や若い子たちがたくさん遊びに来てるんですね。その時にステージの一つだけでも、「ここはソーラー発電でフェスやってます」となれば、若い子たちへの影響は大きいと思うんです。

—アーティストは発信力強いですので、年齢も国も超えていければいいですね。

吉留 とはいえ、現場はまだまだ発展途上、クリアしたい課題ばかりです。

美しい里山から新しいエネルギーを!

—取り組みは3人で足りているんですか?

佐々木 いっぱいいっぱい(笑)。

及川 何より一番大事なのは「かたちにしていくこと」です。そして、それをいかにして太陽ガスの事業にしていくか。そこが問われていますし、そこをクリアしてはじめて、人が増えていくのかなと思っています。

—同時に、仲間も増やしていく。

及川 約2年前に「ひおき小水力発電推進協議会(以下、小水協)」は設立されました。旗振り役は太陽ガスの小平社長です。
 それも、太陽光の場合は一社で完結してしまいますよね。でも、水力の場合は色んな人の協力が必要になるので、社長はあえて「水力をやりたい」という判断をされた。
 一企業が利益を独占するんじゃなくて、関わってくれる人に分配していく。これはそういうことでつくった協議会です。ただ、繰り返しですが、いざつくってみたらあんまりポテンシャルがなかったということなんですが(笑)。

—「小水協」には誰でも入れる?

及川 年間費はありますが、全国どこでも、実際に福岡の方もいますし、誰でも入れます。

—例えば東京在住の日置市出身者で、「新しい取り組みを頑張ってるなら応援しよう」みたいな方も可能ですか?

及川 それはありがたいですね。

佐々木 あとは「インターン募集してます」とか(笑)。

—学生で興味がある人も、全国から参加できる。

及川 それは私としても色々伝えたいというか、一緒にやって、自然エネルギーのことを学んでもらいたいという気持ちはあります。

—全国の他の自然エネルギーの動きで、注目されているものは?

及川 徳島の一般社団法人、「徳島地域エネルギー」というところがやっていることは面白いですね。あるシステムをつくって、市民から寄付を集めて事業費に当て込みながら事業主体が費用を負担する。それをすることによって住民の参加ができるし、そこで「お返し」というかたちで、売電収入から地域の特産品をお返ししていく。

—特産品!

及川 そこがすごく面白いと思います。まず地元の農家さんが喜びますし、参加型で、理念もいい。

佐々木 昨年は各地に見学に行かせていただいて、岐阜県の石徹白という集落があるんです。そこは住民の人たちがみんなでお金を出し合って、新たに農業協同組合をつくっちゃったので、そういう意味でも注目されています。  岡山県の、西粟倉村もすごい盛り上がってます。そこは木質バイオマスで、地域の薪を供給してもらって、供給してくれた人には地域券を渡し、その薪は地元の温泉施設で使えると。最近、その事業をやってる方が行政の別の使ってない建物でゲストハウスをはじめて、そこも超面白そうです。
 そこには洋服屋さんもあって、ただの洋服屋ではありません。地元に伝統的に伝わっていた野良着をリメイクして、全部手縫いで売ってるんですが、地域の伝統を、衣食住のすべてでどうやって後世に伝えていくか、そういう活動を集落ぐるみでされています。

—ライフスタイルに直結しているからこそ、どんどん発展させていくことができるんでしょうか。

及川 どこでも、まず最初は協議会みたいなかたちから始めるといいかもしれません。行政に相談に行っても「勝手にやれば」的な対応をされないよう、ある程度地位や説得力があるところから協議会をつくるのは、日本ではスタンダードなやり方かと思います。

佐々木 普通の人が「何かやりたい」と思った時に、再生可能エネルギーってハードル高いと思うんです。「いっぱい知り合いいないといけない」とか、「金が必要」とか。  その点でもっとハードルを下げるためには、例えば「1万円くらいで買えるソーラーパネルを自分で仕入れて人に売る」とか、そういう選択肢を増やさないといけない気がします。

水車のメンテナンスをする吉留さん

—お三方それぞれの理想の未来はおありですか?

吉留 まだ先が見えてない部分もありつつ、自分はものづくりの立場として、及川さんが始める新しい産業を実現させられる設計をし、その礎になれればと思っています。現状では、「それをうまくつくる」という以外は言えません。
 私は前職が金属の接続加工業で、こちらに関しては新たに電気の勉強をしながら、そもそも好きだった分野に深いところから関われている感触があります。前の職場では指示されて、「このかたちになった」ということで出荷して終わりでした。それがここでは、「今までなかったものをつくり出す」という部分をやらせていただいています。それがうまくいった時の喜びを糧に、頑張りたいと思います。

佐々木 今、日置市では色々な準備が整ってきています。太陽ガスという経済的後ろ盾もありつつ、僕としてはこの2人から仕事を任せてもらえたり、自分の発想がそのまま仕事に活かせる状況が整いつつある。ですから大事なのは「エイヤッ」と実行し、仮に失敗しても、それを活かしてまた次にいくこと。正直、手応えはまだ何もない状況ですので、本当にこれからだと思います。

及川 佐々木さんは、色々面白いアイディアを出してくれて、研修会なんかでも、そこに他の人も興味を持ってくれたりします。ですから、まさに「準備は整った」という。

—時はきた!(笑)

吉留 今こそその力を!

及川 私の根底には、「地域の人に喜んでもらえるエネルギーをつくっていきたい」ということがあります。
 たぶん、再生可能エネルギーをやっても地域のためにならないものってあるんです。そうじゃなくて、「地域のためになるもの」をやる。それがエネルギーであれば、その売電収入を何らか地域のために活用していく。そういうものをつくっていけたら、わいわいがやがや、面白いものが生まれてくるんじゃないのかなと思います。

—3・11がなければ鹿児島には来てなかった?

及川 そうですし、だからこそ社会を変えていきたい。そういう立場にいさせてもらってると思っていますし、それに必要なある程度の情報も持って、そういうことをずっと考えてきました。
 また、色々な方々のお導きでこの環境に辿り着いたという自覚もあるので、そこはもっと、お返ししていかないとと思っています。

PHOTO BY 渋谷健太郎
TEXT BY 平井有太(マン)

太陽ガスの3人の熱い思いが新エネルギーの未来を作ります。

平井有太(マン)プロフィール
1975年、東京、文京区出身。NYの美大、School of Visual Arts卒。フリーのライターとして各種媒体、国内外の取材を重ね、2012年10月より2年半福島市に在住。著書「福島 未来を切り拓く」(SEEDS出版、2015年)には、ドイツのエネルギーシフトを牽引した元・欧州緑の党共同議長、ダニエル・コーン=ベンディット氏のインタビュー収録。福島大学FURE客員研究員。共著「農の再生と食の安全 原発事故と福島の2年」(新日本出版社、2013年)。2013年度第33回日本協同組合学会実践賞受賞。

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