#03  霧島酒造のさつまいも発電

—ここまで、色々な試行錯誤があった?

田原 バイオガスを「溜めておく」というのは、できないことはないですが、逆に溜めるためには圧縮しないといけなくて、圧縮のためにはそれだけエネルギーがかかります。圧縮したものを元に戻すのにもエネルギーがかかるので、それをやってたんでは何もやってるかわからなくなる(笑)。ですから、工場のエネルギーの消費の平準化というか、なるべくうまく使えるような工夫、そういった模索はしてきました。  
ですから、工場には乾燥機があるんですが、これは夜間に動かすんです。工場の製造工程で、エネルギーをいっぱい使う時間は停めておいて、夜間はそっちの需要がなくなるので、その後に乾燥機を動かします。でも、それでも余るものですから、それを売電にまわそうと。

—売電はどれくらいされているんですか?

田原 去年の9月から稼動してまして、年間に換算すると400万キロワットくらいでしょうか。

—その量は、わかりやすく説明すると?

田原 一般家庭にしたら、1100世帯くらいと思います。

—それは予想以上の量?

田原 だいたい想定内ですね。

—田原さんが特に環境問題に意識はお強かった?

田原 いえ、それは私が特にということではありません。会社の使命として、社長なんかは「大地の恵み」と言ってますが、それがあってはじめて成り立ってる会社ですから、そういう社風ということですね。

黒木 それは平成8年、今の社長、3代目が社長となった時に全社員に向けて、「行動指針」というかたちで出された「ハートフル」とか、「ローカリティ」といったメッセージに込められたことでもあります。  
朝礼では社訓を唱和しますし、重要な会議のはじまりでも唱和します。特に「ローカリティ」の部分は、「地域とともに発展する企業として地域で愛されているものを県外に出していく」と。地域の方々が応援団になって頂いている事が大切です。私どもの製品はやはり地場産品ですので、それを大事にする。工場建設にしても、それは農家さんも含め、地元圏域の方々を大事にしながらお金も地域で循環させていくと。

—九州電力さんに売電した電力が何に使われているかはわからない?

田原 それはわかりません。

—焼酎カス以外、また別のエネルギーに還元できそうなものはありますか?

黒木 今後はもっと、今あるものをさらに有効活用できるようにしていくということでしょうか。  
最初は捨てるだけの廃棄物だった焼酎カスが、ある時から「資源」という位置づけに変わりました。とはいえ、誰でも、何でも、こういった発電事業に繋げていくことができるわけではないですね。 —グリーンエネルギー部には何名くらいいらっしゃいますか?

田原 今は40名ほど、24時間を3交替勤務で、プラントの管理や、もちろん事務の子もいます。運転だけで40名以上。部署自体は2、3年前から、もともとは環境部といいました。

黒木 そもそも勤務時間も不規則できつい業務ですから、なかなかモチベーションが高まらないんですが、今はこうやって発電に携わっていることで、関係している社員の気持ちもずいぶん変わってきたような気がします。

—異動希望も増えましたか?

田原 私の方にはあんまり情報はあがってこないので(笑)。

—24時間365日稼動している?

田原 焼酎をつくっているのは330日ほど、プラントの方は34、50日動いています。停止してメンテナンスもなかなかできないので、動かしながらちょっとずつメンテナンスをやっています。

—実現までの一番のご苦労は?

田原 やっぱりメタン発酵にしても飼料づくりにしても、いきなり大きなものをつくるんでなく、何年かは研究、実験をしております。メタン発酵は他社さんと共同研究をやりました。  
発電機は、余ってるガスで発電しますので、変動に強いタイプのものを入れました。オーストリアのイエンバッハというメーカーのものです。

—欧州の方が一歩先をいってる?

田原 国産も色々調べたんですが、やはりあちらの方がバイオマスの有効利用は盛んなようで、そういった、負荷の変動が大きくても対応してくれるタイプのものがつくられているようです。

—省エネ対策も、グリーンエネルギー部が考えている?

田原 各部署、全社で考えますが、アドバイスやとりまとめはうちでやっております。省エネは非常に地道な活動で、ちょっとずつ無駄遣いしないとか、効率いいのに変えるとか、そういうことの積み重ねですね。前年よりも今年は、今年よりは来年は、という繰り返しです。

例えば保温してない個所があれば、放熱しないように配管にカバーをする。そもそもそれだけ今、これは日本にとっていいか悪いかは別にして、エネルギーコストというもの自体が無視できなくなってきています。色々なことをやる上で高くなってますし、今後も非常に不安定ですよね。エネルギーがないと生活もできないわけで、意識せざるを得ません。

—地道な中でも、特に効果的だった省エネ方法はありますか?

田原 弊社の場合は熱を多く使うので、今申し上げたように、配管をカバーするだけでかなりの効果があります。あとは窓のブラインドも、外付けにすると全然変わりました。中ではもう熱が入ってきてからなので、外付けだと、まず外で断熱されますから、結構な効果がありました。その辺のことは家庭でも使えるかもしれませんね。


さつまいもはエライですね。美味しい焼酎も作るしエネルギーも作るなんて。そんな事はみなさん知らなかったでしょ。我々も黒霧島は飲みますが知りませんでしたよ。

自然豊かな大地で育った「さつまいも」を上手に大切に最後までキレイに使う霧島酒造さんはもっとエライわけですね。

今回取材して印象深いのが働いてるみなさんの笑顔で、その理由は捨てる物からエネルギーを作り出してる、グリーンエネルギーで「良い事」をしてるって感覚があるからかなって。そんな事を考えながら、話を聞いていたら,我々取材班も笑顔になっていました、やっぱり。
新しく作るエネルギーの話って、そんな不思議な効用があるかもですね。

みなさんはいかがでしょうか。


PHOTO BY 渋谷健太郎
TEXT BY 平井有太(マン)

平井有太(マン)プロフィール
1975年、東京、文京区出身。NYの美大、School of Visual Arts卒。フリーのライターとして各種媒体、国内外の取材を重ね、2012年10月より2年半福島市に在住。著書「福島 未来を切り拓く」(SEEDS出版、2015年)には、ドイツのエネルギーシフトを牽引した元・欧州緑の党共同議長、ダニエル・コーン=ベンディット氏のインタビュー収録。福島大学FURE客員研究員。共著「農の再生と食の安全 原発事故と福島の2年」(新日本出版社、2013年)。2013年度第33回日本協同組合学会実践賞受賞。

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